リストボタン海外派兵に反対する    2003/12

戦後六十年近くなかったことであるが、日本の事実上の軍隊といえる自衛隊が、外国の戦争状態の続く地域に派兵されることになった。このようなことは、今後の日本の進路に重大な変化を来らせることになるだろう。

しかもそれは日本にとつて暗雲のかかる状況への変化である。

首相は、人道支援だ、戦争に行くのでない、国際協調だということを強調する。

しかし、装輪装甲車や無反動砲、軽装甲機動車などを装備し、重機関銃は毎分五百発前後を連射できるという。これは、過去の国連平和維持活動(PKO)とは比べようのない厳重警備下の行動になる。

のような、装備は、攻撃を受けたときに、身を守るためだという。しかし、自衛隊が給水や施設の復旧などに従事中、テロリストなどが攻撃してきた時、装備している重機関銃を発射すればたちまち相手には死傷者が出る。それがさらに相手の敵意をあおって、さらなる攻撃を受けるようになれば、それを防ぐとか事前に守るとかいって、相手を攻撃することになる。それはまさに戦争である。

 このようなことは、すでに繰り返し指摘されている。にもかかわらず、首相が強行しようとするのはなぜか。それは、いくつか理由があるが、とくに北朝鮮の脅威があるからだ。イラク問題でアメリカの希望に沿うように行動するから、そのかわり北朝鮮問題で日本の意向を取り入れてもらいたいという駆け引きからやっていることなのである。

しかし、北朝鮮問題においても、こうした軍事力を用いて解決をはかろうとすれば、いっそう新たな問題が生じる。それはアメリカに日本の都合のよいように、はからつてもらうというにとどまらず、日本独自に、さらに軍事力を増強して、さらには核兵器までもって、北朝鮮に対抗するべきだという方向に進んでいくからである。

 アメリカは、広島型原爆の三分の一程度の小型核兵器の研究開発を、過去十年間禁止してきた。それはそのような小型核兵器は通常の兵器との差が小さくなり、かえって、核兵器を拡散させ、それを使うことが広がることになるからであった。

しかし、今回、小型核兵器の研究開発をブッシュ大統領が承認した。こうした軍事力に頼ろうとする傾向は日本にも直接的な影響を及ぼすことになるだろ。
このように、軍事力によって国際紛争を解決しようとする方向は必ずさらなる軍事力の競争、肥大化をともなっていく。そしてそうした増大した軍事力を持つようになると、必ずそれをつかうようになる。自分の国を守るためと称して、相手を攻撃し、そこから大きな戦争となり、数知れない人たちが殺され、傷ついていった。このことは、過去の歴史のなかで、繰り返し経験されてきたことである。

また、国際協調のためというが、国連加盟の百九十余りの国の中で、イラクに派兵しているのは37カ国であり、ドイツ、フランスも派兵していない。アメリカの隣国であるカナダはわずか輸送機三機しか送っていないという。

北朝鮮問題で都合のよいことをアメリカにしてもらいたいとの発想が根底にありながら、イラクの人道支援のために行くのだ、などというのは、国民を欺くものである。本当に人道的な支援を考えているのなら、世界の八億人もの人たちが、いまも学校や病院の復旧以前の問題である、食べ物がなくて、飢えている状態であり、飢えのために数知れない人たちが死んでいるという、驚くべき実態の方がより深刻な問題である。そうしたことに日頃から、力を注いでいくことがずっと人道的な姿勢だといえる。

今年度の防衛関係費は、49265円という膨大なものであり、世界有数である。この金額は例えば毎年百億円ずつ使っても、五百年近くも使えるほどである。そして今回の自衛隊派遣の準備費だけでも数百億円が予定されている。今後自衛隊が続いて派遣されていくことなれば、ますます費用は多額になっていく。年金とか福祉予算をつぎつぎけずっていくという状況にあるのに、このような防衛予算の削減をまるでしようともしないし、国民もどうもそのことを指摘しないのが不可解である。

そしてこうした防衛関係費を縮小して、そのかわりに、貧しい国々への文化、教育、穀物生産などに、人を派遣し、イラクでは自衛隊員が死ぬ危険もあるのに送り出そうとしているが、そうした真剣さを貧しい国々への援助や福祉に注げばどれほどか世界的に信頼され、国際的な平和を築く国となることだろうか。

現在すでにある世界の貧困、飢餓状態がたいへんな状態であるのに、そのようなことを放置しておいて、アメリカの圧力によって、始めようとしていることを、人道支援だなどというのは、国民を欺くものと言えよう。

 こうした一種の偽りをもとにし、軍事力をもとにした国際紛争の解決策というのは、必ず将来に大きな問題を残していく。だからこそ、日本国憲法では、つぎのように述べているのである。

「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国埠の発動たる戦争と武力による威嚇、または武力の行使は、国際覇争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない。」(第九条)

国際平和を誠実に希求しとあるのは、国民とその代表者たる、政治家が偽りのない姿勢で平和問題にあたっていかねばならないということである。個人の間で悪であるにもかかわらず、国民に対し、また国際間では欺くことがしばしば当然のようになされる。それは敗戦以前の政府や軍部がいかに中国など特にアジア諸国に対して、また国民に対しても偽りの言動をなしたかをみればわかる。

例えば、一九三一年に奉天の北方、柳条溝で満鉄の線路が爆破された。そのとき、軍部は、それは中国軍の攻撃だと発表した。これが、十五年も続く中国との戦争の始まりとなり、のちの太平洋戦争にとつながり、日本だけでなく中国や東南アジアのおびただしい人たちが犠牲となっていく発端であった。それは、このように偽りから始まったのである。一度、戦争が始まり、それが大規模なものとなっていくと、事実を隠し、偽りが堂々とまかり通るようになってしまい、破局にまで突き進んでいく。
 こうしたことにならないために、この憲法が制定されたのである。その憲法を事実上骨抜きにして、今回のような自衛隊の海外派兵となった。
しかし、状況がどのようであろうと、真理は変わらない。この憲法九条の精神こそは、平和への最もたしかな礎であり続ける。
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