リストボタンことば    2006/9


242)存在するもののなかで、最も古いものは神である。神は創造されたものでないからである。
最も美しきものは、宇宙である。神の創造したものであるゆえに。(*
最も速いものは、知性(心)である。あらゆるものを貫き走るがゆえに。(**
最も賢きものは時である。あらゆるものを明るみに出すがゆえに。(タレースの言葉より)

*)ここで「宇宙」と訳された原語(ギリシャ語)は、コスモス(kosmos) 。これは、「秩序」といった意味があり、宇宙は最も秩序ある美しいものであるから、宇宙という意味にも使われ、そこから、秩序あるものは美しいから、英語のcosmitic は、美容、化粧という意味にもなり、秋に咲く美しい花、コスモスという植物名にも用いられるようになった。
**)ここで知性と訳されている原語は、ヌース(nous)であって、「理性」とも訳される語である。


原文は、詩的な表現で簡潔である。例えば、右の注をつけた原文は次のようになっている。
kalliston kosmos poihma gar theou
最も美しい 宇宙 作品 なぜなら 神の
tachiton nous dia pantos gar trechei
最速 理性 通す 全て というのは 走る

・ヨハネ福音書には、はじめにロゴスがあった。ロゴスは神であった。---とある。この地上に生れてイエスと名付けられたお方は、永遠のはじめから神とともに、また神であられた、という表現を思わせるものがある。
すべてのものは移り変わり、生れては消えていく。宇宙の星々も同様である。しかし、ただ神のみはそうした移り変わりとはいっさい関わりなく存在しておられる。
最も美しいもの、それは宇宙だという。それは、宇宙にある星々、そして大空の美しさ、星々の動きなどを総称して言っていると思われる。
旧約聖書にも、つぎのように記されている。「天は神の栄光を物語り 大空は御手のわざを示す。」(詩編十九・23)人間によって決して変えられない、汚されないゆえに、神が創造されたままの美しさを保っている。
最も速いものとは、心(知性、理性)である、このような表現は意外に思われるだろう。現在では、光が最も速いというのは、常識のようになっているし、人工的なものについても、地上の新幹線とかジェット機、ロケットなどを連想するからである。
私たちの、心(判断力、知性)は、確かに、一瞬にして遠い星のことへと思いを馳せることができる。最も速いという光でも、太陽系のある銀河宇宙に最も近いアンドロメダ星雲まで、二三〇万年もかかる。
しかし、私たちの知性は、一瞬にしてアンドロメダ星雲まで思いを馳せることができる。タレスは、今から二六〇〇年ほども昔のギリシャの哲学者。

243)人間の精神は平常の時には、浅薄な考えや興味の言わば厚い被いにつつまれているが、苦しみのときには、その被い(おおい)がことごとく取り除かれて、その代わりに純精神的なことを容易に理解でき、一切の人間関係を正しく評価し、また感情が真実になってくる。しかもこれらは、以前どんなに努力を積んでも得られなかったものである。
この点において、苦しみはすべての善い行いよりもまさっているとさえいえる。苦しみに満ちた日の間に、生まれつきの素質からすればとうてい超えられない内的進歩の限界を乗り越え、ふつうでは決して退散しそうもなかったさまざまの性癖(せいへき)が苦しみの灼熱のなかで溶かし去られるのである。(「幸福論」第三部一四五頁より)

・たしかに私たちは、苦しみを経験しなかったら、どんなに年齢を重ねても、また学問ができても人間が何であるか、また神の愛とは何かといったことは表面的にしか分からないだろう。
病気もしていないし、家族もよい、何も苦しみはない、という人がいる。しかし、そのような人がもし、主イエスの言われたように、「まず神の国と神の義を求める」という生き方へと踏み出そうとするとたちまち苦しみは生じる。例えば、毎週やってくる日曜日の過ごし方一つをとっても、まず神の国を求めるために、会社の仕事があっても、また家族との旅行や遊びなどの娯楽をおいて日曜日の礼拝集会に行く、ということを始めるとたちまちそれまで和気あいあいの家族であっても、家族の反対に直面するであろうし、職場でも評価を下げられることにつながるだろう。そしてそれはその後もずっと何らかの苦しみをもたらすことにもつながりかねない。
みんなが黙っていることを、神の国を求める心から、間違いだ、と指摘したらその職場や集団から排除されることにつながりかねない。そこから苦しみは始まる。
「それぞれが自分の十字架を背負って、私に従え」(マタイ十六・24)と言われた。 それぞれが何らかの十字架を負いつつ、従っていくとき、私たちは苦しみに出逢ってもそのなかで神の助けと導きをじっさいに知ることができ、生きた神ということを実感させて下さるようになる。


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