リストボタン拉致に関して    2007/1

北朝鮮による拉致問題は、この数年繰り返し重大問題として報道されてきた。人権を重んじるはずの現代の国家が、こともあろうに計画的になんの関係もない他国の若い人間をいきなり捕らえて自国に連れ出し、自分たちの計画に利用するといった、考えられないような犯罪行為をしたことが明らかになったのであるから、国民に強い関心が生じた。
政府がこの問題の解決に努力するのは当然のことであるが、この問題を特別に重視し、さまざまの方策をとっているのは、不当な圧迫に苦しむ人たちへの配慮からとは言い難い側面がある。
それは、似たような状況に置かれてきた中国残留孤児への待遇とは大きくかけ離れていることからも明らかである。
それは、去年の十二月に神戸地裁がこの問題について出した判決でも触れられていたことであった。
小泉前首相や官房長官時代の安倍氏はこの国民的関心の波を受けて、彼らの支持率が大きく拡大することになった。それは結果的に彼らの力を側面から強め、郵政改革の選挙でも外部から特別な候補を入れるという手段によって、大きく得票を延ばした。それによって与党は重要問題でも、次々と決定していくようになった。
教育に関する問題は、いじめや授業が静かにできないといった学校現場の荒廃問題など、さまざまの問題があるにもかかわらず、まともに議論せず、タウンミーティング問題に現れたような姑息な手段で世を欺き、教育基本法は強行的手段で改訂されてしまった。
さらに、防衛庁が防衛省となり、海外派兵が本来任務となり、外国との摩擦が現実の問題となってきた。
このような方向に進んでいくことに、拉致問題が手助けするかたちになったのである。北朝鮮による拉致問題がなかったら、あのように小泉前政権や安倍首相の人気は高まらなかっただろうし、従って教育基本法の改訂などもあのようにはやく決まることはなかったであろう。
現在の政権の目指す方向は、たしかに戦争に加わる危険性を高めていく方向である。アメリカのイラク戦争開戦に、率先して支持したのは、小泉政権であった。しかし、すでにその戦争は誤りであったと、アメリカ大統領自身が国民に向かって「従来の政策の失敗を認め、誤りの責任は私にある」と最近になって表明した。
国連イラク支援団(UNAMI)は、一月十六日、イラクの人権状況に関する報告書を発表し、昨年、テロや宗派間の暴力などで死亡した民間人が三万四四五二人に達し、負傷者も三万六〇〇〇人以上に上ったという。
このような悲劇的事態となり、多数の死傷者が次々と生じるようになったのは、直接的にはアメリカのイラク戦争開戦による。この開戦は、国連の同意も得ることなく、しかも、その戦争開始の直接的理由が、大量破壊兵器を持っているという嫌疑のためであったが、後になってそのようなものはなかったことが判明したのであった。
そしてそのような間違った戦争を日本の政府が、率先して支持したのである。にも関わらず現在の安倍首相は、そのことについての前政権の誤りには極力触れないようにしている。防衛大臣に至っては、あれは小泉前首相個人の考えだったと言い出したりしたが、イラク開戦直後に、小泉内閣ではイラク戦争開戦を受けて二〇〇三年三月二〇日、「わが国の同盟国である米国をはじめとする国々によるこの度のイラクに対する武力行使を支持する」との首相談話を閣議決定したのであり、政府の公式見解であった。
平和憲法があってもなお、国外に自衛隊を派遣し、アメリカの戦争を助けているのであるから、憲法が改訂されるならば、アメリカと共同して今回のような戦争を遂行していくことが予想される。
そうなれば、今問題となっている北朝鮮による拉致とは到底比較にならない人たちの犠牲が予想される。平和憲法の歯止めがなかったら、イラク戦争にもアメリカとともに深く関わり、多くのイラクの人たちが殺されることに加担することになっていただろう。
拉致よりもはるかに悪いのは、捕らえて殺すことである。無差別に爆弾を破裂させてなんの関わりもない一般市民の命を奪うことである。戦争とはそうしたものであり、拉致やそれ以上の殺人が次々と日常的に行なわれるのが戦争なのである。
それゆえに、大量の殺人などの悲劇をもたらさないためにも、現在の平和憲法を守ることがさらに重要なのである。
そのことを忘れて北朝鮮による拉致のことばかりに目を向けて、それが知らず知らずのうちに憲法を変えていく勢力を後押しすることにつながっていくのを十分に警戒しなければならない。


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