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(336)美点を見る
…(ローマの信徒への手紙の最後の章である十六章について)
単に関わりのある人の名前のみを述べて挨拶の出来ぬ事はないのであります。しかるに一人一人に讃め言葉を用いたのは、人の美点を忘れないがためであり、パウロの内に本当にキリストが宿っている証拠であります。我々は誠にこのことから学ぶべき事がたくさんあるように思われます。
他人の噂をするときに「彼は何々には有名だといふ事だが 、しかし……」と非難し、あるいは「熱心であるけれども狭い」などと云ひます。
しかしパウロは違います。彼は名前を言うにあたって、美点のみを心に明かに覚えて欠点を忘れております。私は初めてアマストに行きましてシーリー先生(*)に会いました時に、先生はご自分が知っている日本人の誰れ誰れと名前を指して、皆その美点のみを数えました。
私はひねくれた人間でありましたから先生は日本人を買いかぶつたのであろうと思つておりましたが、後で誠にこの人にはキリストが宿つていたのだと知る事ができたのであります。…
私はシーリー先生に接しましてから、誰でも善く見えるようになつたのであります。彼の人は学者であるとか、歌が上手であるとか、事務家であるとか、いろいろ長所を付け加えて名前を覚える事ができるのであります。真実にキリストの感化をうけた者は他人の欠点を忘れて長所をのみ記憶する事が出来るはずであります。(「内村鑑三先生講演集」一九一三年 内村鑑三全集第二十巻 四八二頁)

(*)シーリー先生とは、内村がアメリカに渡って二年目、二四歳のときに出会った人物。アマスト大学長。

・この美点を見る、ということは単なるありきたりの道徳訓ではない。この世のさまざまの出来事に直面して、つねにそこに、大いなる神の摂理という美点を見るということ、それが信仰と希望と愛の与えられた状態だと言える。自分がどんなに苦しくとも、そうした出来事の背後には、愛なる神の御手があり、最善に導いてくださっているのだ、と信じることは、この世界の背後にある美しき御手を信じることであり、大いなる美点を見つめようとすることである。
内村は、このことを知らされてから、「誰でもがよく見えるようになった」という。神を愛するものには、万事がはたらいて善きことに転じる、という確信があるとき、誰でもが、また何事でもが、善きものを秘めていると感じられるようになるのだと言えよう。
神を信じるということ自体、この世全体における目にみえない創造者のわざが美点に満ちていることを信じることであるし、使徒パウロが、常に感謝せよ、いつも喜べ、常に祈れ、とすすめているのは、そうしたこの世界の背後にある神の美点を見つめていなければ到底できないことである。

(337)
悲しみは夜通し続こうとも
…もし、あなたが試練の夜にあるなら、夜明けのことを考えよ。主が来られることを思って、自分の心を励ますのだ。
忍耐強くあれ。…もしあなたが今ほどみじめな状態にあったことはない、と思われるときにも、次の言葉を覚えなさい。
「太陽があと幾たびか出て、また沈むなら、あなたは美しいカナンの岸(神の約束の地)に着くのだ」
今、あなたが、茨のような苦しみを冠としていただいていても、まもなく星のように輝く冠を受けるのである。
あなたの手は心配で満ちているかもしれない。しかし、まもなく、その手は天のたてごとを奏でることになろう。
あなたの衣はいまは塵に汚れているかもしれない。しかし、まもなくそれは、純白となるのだ。…
いかに夜が暗くても必ず朝が来る。それは地獄の暗闇に閉じ込められているものには想像もつかないすばらしい朝である。

いまは闇であるかもしれない。しかし、まもなく光が来る。いまは試練ばかりかもしれない。だが、しばらく後には大いなる幸いとなる。

Thy head may be crowned with thorny troubles now, but it shall wear a starry crown ere long; thy hand may be filled with cares? it shall sweep the strings of the harp of heaven soon. Thy garments may be soiled with dust now; they shall be white by-and-by.…
It may be all dark now, but it will soon be light; it may be all trial now, but it will soon be all happiness.

(スパージョンの語ったままの個性あふれる表現にふれてもらうために、原文を部分的に引用した。)(スパージョン「朝ごとに」五月一三日)

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