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リストボタン放射性廃棄物の処理の困難

三月十一日の大震災の発生以来、大地震と津波による建物や道路の破壊を復旧することは、さまざまの困難に直面しつつも、道路は車が通行できるようになり、ガスや水道、電気なども回復し、仮設住宅も建てられる…といった状況にみられるように、確実に前進している。
 しかし、原発はこの事故が、人間生活のあらゆる方面において、いかなる破壊的影響をもたらし続けるのか、ますます深刻さが拡大しつつある。
 あれほど大きな地震が起こったからといってあとは小さな余震で終わるだろうとは言えない。
 2004年の12月26日に発生したスマトラ沖大地震のマグニチュードはM9・1〜9・3であり、死者行方不明者は30万人を超えた。この大地震はそれだけで終わらず、3カ月後に、250キロほど離れたところで、マグニチュード8・7の巨大地震が発生していて、多くの死者を出した。さらに、3年ほどのちにもその地域でマグニチュード8・4の大地震が生じている。
 このように、今回の東日本大地震の後も数年は大地震がその付近で発生する可能性があるから、福島原発がさらなる破壊を受ける可能性が残っているのである。
 もし、今後大きな地震が発生して、現在部分的に破損している圧力容器や格納容器、関連機器など、原発のさらなる破壊によって、注ぎ続けている水が大量に漏れることによって冷却ができなくなり、数千度という高温となり、さらなる水素爆発あるいは水蒸気爆発などが起こると、福島原発一帯が濃厚な放射能で汚染される。
 そのような爆発が生じなくとも、地震による原発のさらなる破損によって大量の高濃度の放射能が外部に放出されることになると、作業員も近づけなくなる。もはや何らかの対策を実行することもできず、4基もの原発が制御できなくなって、世界でいかなる国も経験したことのない状況が生じる可能性がある。
 そして大量に大気中に放出された放射性物質は、台風などの強い風雨、その風向きによっては、数千万人が生活する、関東一帯が放射能汚染され、水も飲めなくなり、生活に重大な困難をもたらす可能性をはらんでいる。
 東京、関東一帯に放射能が降り注いだら、数千万人はどうなるのか。日本全体が、かつてない困難な事態となるだろう。
 現在は、全力をあげてメルトダウンしてしまった核燃料を冷却することを続けているし、そのような破局的な事態を生む大地震が生じる可能性は少ないと言えようが、大地震が生じないという保証もない。万一の場合には、このようなかつていかなる国も経験したことのない事態が生じる可能性をはらんでいるのであり、そもそもそのような恐るべき事態をはらむ施設、しかも、解決方法もないのに、何十万年も放射能を出し続ける危険物質を生み出すものを造り続けるということ自体、根本的に誤っているのである。
他のさまざまの事故や災害は―あの太平洋戦争末期の空襲による荒廃のように、いかにひどい破壊状態であっても、確実に少しずつ復興されていくが、原発はきわめて復興が難しい。土壌や水が降り注ぐ放射能によって汚染されたら、いくつもの府県にわたって何十年、いやそれ以上にわたって住めなくなるからである。
 じっさい、チェルノブイリ原発の事故から25年がすぎたが、その地帯一帯は30キロ四方が居住禁止となっている。事故のあった原発そのものを撤去することもできず、その燃料体に近づくと、死んでしまうほどの強い放射能を持った状態である。その原発を覆う巨大なコンクリートもたくさんの穴があいて、そこから放射能は漏れだしているし、それら全体を再度覆うさらに巨大なコンクリートで覆う必要が生じている。
 緑豊かな田園地帯、新緑のしたたるような自然ゆたかな山々のひろがり、そうしたうるわしい大自然は、放射能が降り注ぐことによって一転して、恐ろしい放射能を含んで農業のできない田畑となり、山野、また森となり、樹木草木の一つ一つの葉も放射能が付着し、あるいは根から放射性物質を吸収して放射能を持つようになり、森は放射能のあふれる森となり、野草たちも放射能に満ちた物質と化してしまう。また清い川の流れも汚染され、地下水も汚染され、飲料水も使えなくなっていく。
 上空からの写真では、広大な福島の大地のわずか一点のような原子力発電所、それがひとたびこのように爆発して、放射能の管理ができなくなるとき、途方もない領域を危険と不安に満ちた大地とし、そこの生活を次々と破壊していく。その悲劇的事態はとどまるところがない。
 しかも、原発から出る膨大な放射能を含む廃棄物は、処理の方法がない。何らかの方法で放射性物質を吸着したとしても、その吸着したものから放射能をなくすることはできず、また、捨てることもできず、新たな濃厚な放射能をもった物質が生み出されることにもなっていく。
 何らかの処理をすれば、それで事が済むのでなく、何十年、何百年どころか、何十万年にわたってあらたな問題が次々と果てし無く生じていくのが原発の事故の深刻な事態なのである。
 こんな恐ろしい可能性を持っている原子力発電という仕組みを、このような大事故が起こったにもかかわらず、なおも、推進しようとか、数年先になって浜岡原発も再稼働しようと考えている人たちが相当いる。
 ほかのいかなる科学技術の産物も、この原発の燃料や廃棄物ほど困難な問題はほかにない。
 このような反人間的な施設をこれからも継続、増設などを唱える学者、政治家、一般の人たちが多くいる。そういう人たちは、福島原発の近くに住んで、農地や農業を奪われ、家族関係を破壊され、また自分の家にもいられず、不便とプライバシーのない、かつ、子供や孫が数十年先にガンになることをおびえつつ、いつまで続くか全く分からない避難生活の場所で生活してみたらいいのである。
 放射能は人間の力では消すことができない。消す方法がないのに造ってしまったのである。目に見えない放射能が何十万年と続く。そしてさまざまなものを壊していく。清い大地の中にも地下水にも、空気の中にも、放射能は入っていく。そして、放射能の被害はガンの発生など、何十年も後になっても現れる。このように、原発の大事故となると、水、農地、山野、人間の体など、至る所が放射能のために汚染されていくから復興は著しく困難となる。
チェルノブイリ原発の事故ののち、1週間後の1986年5月までに、30km以内に居住する全ての人間(約11万6000人)が移転させられた。さらに、原発から半径350km以内でも、放射性物質により高濃度に汚染されたホットスポットと呼ばれる地域においては、農業の無期限での停止措置および住民の移転を推進する措置が取られ、結果として更に数十万人がホットスポット外に移転した。(ただし、避難指示に従わないで、そこに住み続ける人たちが、30キロ圏内に200人以上いるとのことである。)
 現在も30キロ以内は居住禁止区域となっている。写真週刊誌の記者がじっさいにチェルノブイリ原発に行って、測定したところ、事故のあった原発に3キロという所まで近づいて、草むらの放射性量を測定すると、東京の平常値の数百倍、また別の場所では、爆発した原子炉関係の破片などが飛び去り、それが草むらに残って、通常値の5000倍もの放射能が測定された。
 そして、爆発した原子炉に残されている、溶けだした燃料が固まった状態のものは、近づくと即死するほどの放射線が、25年経った今も放出されているという。(FOCUS 4月20日号他による)
現在は、原子炉を冷やすということが中心に毎日のようにニュースでも報道されている。冷やさなければ数千度にもなって、水素爆発など何らかの爆発が生じる可能性が高まる。 そして、さまざまの周辺の物質を溶かし、膨大な放射能を出し続ける。そして、原子炉の建物以外に、土や地下水、大気、海、などさまざまのものが放射能で汚染され続けていく。
しかし、他方では、放射能で汚染された物質が絶えず増え続けていくことはどうすることもできない。
福島第一原発で放射能で汚染されたがれきや土砂を処理するのに、70兆円から80兆円、場合によっては100兆円前後もかかるのではないかという結果が出たという。
高濃度に汚染された土砂は1トンにつき1億3500万円もかかり、現在も高い濃度に汚染された水は、増大し続けている。すでに10万トン近い汚染水が福島第一原発内にある。この汚染水を処理するためには、1トンで1億円と言われている。
このような調子であるが、そもそも今後どれだけ汚染された土砂、山林、田畑、原発内で毎日生じている高濃度に汚染された水、また海の汚染…が増大していくか誰にもわからない。
だから、こうした放射性物質の処理にどれだけの費用と年月がかかるのかも、本当のところは誰にもわからない。
現在、増え続けている福島第一原発関係の汚染された水や物質だけでない。今回の事故以前から、放射性廃棄物を処理するとして青森県六ヶ所村に作られた施設がある。それは、全国の原発から送られてくる高濃度に汚染されたおびただしい放射性廃棄物からプルトニウムを分離して再度使うという目的のためであった。しかし、そのプルトニウムを使うはずの高速増殖炉の原型炉もんじゅは、故障して使えなくなっている。
もんじゅは、1968年に 高速増殖炉の実験炉「常陽」の後継として、原型炉の予備設計開始されてから、もう43年にもなるにもかかわらず、まだ全く使える状態にない。燃料には使用済み核燃料にふくまれるプルトニウムと燃え残りのウランからつくられた混合酸化物燃料(MOX燃料)が利用される。
1995年に最初の発電が行われたが、わずか3カ月あまりのちに、きわめて危険なナトリウムが噴出して火災を起こすという重大事故が発生した。それ以来、16年ほども何の発電もできず、それにもかかわらず、修理と維持管理費としてこの長い年月の間、平均すれば、毎日5500万円という巨額を使ってきた。そしてようやく再度発電を始めたが4カ月も経たないうちに、原子炉容器内に重さ3.3トンの機器が落ちてしまい、その回収も不可能と判明し、ふたたび長期の運転休止となっている。その落下した機器を出すには、大がかりな工事が必要となり、そのためにまた巨額が必要とされることになった。
その他いろいろの理由のため、高速増殖炉を使って、燃えないウラン238を使ってプルトニウムを生み出し、それを使って発電するというこの計画はすでに破綻している。
青森県六ヶ所村にある再処理工場もうまく稼働しないために、現在は、容量が3000トン放射性廃棄物を貯蔵できるが、すでに、2800トンも廃棄物がたまった状態にあり、各地の原発もそのために、放射性廃棄物を捨てるところがないために、それぞれの原発内に置いている。それはもう置くことのできる容量の66%にも達しているという。
膨大な放射性廃棄物が刻々と各地の原発でたまりつつある。しかし、それをどこにも持っていくところがない、捨てるところもない。放射能をなくすることもできない。そのような行き場のない、高濃度の放射性物質がこのままたまっていったらどうなるのか、誰もその本当の答えを知らないまま、進行中なのである。
このような、無責任なこと、必ず大量に生じる放射性廃棄物の処理すらできないのに、大量に原発を造り続けてきたのである。
そしてその多量の廃棄物は、ずっと冷却を続けなければ高熱となり、周囲のものを溶かしつつ、放射能を出し続けていくから、ずっと冷却が必要である。これらの膨大な廃棄物の容器や水で冷やすという仕組みが大地震などによって破壊されるとき、それらは原発の事故と同じような大問題となる。
さらに、現場で働く作業員が受ける大量の放射能の問題がある。表面に現れないが、肝心の原子炉の復旧にかかわっているのは、放射能を大量に浴びつつ作業している作業員の被曝がいちじるしく増大しつつあり、それらの人たちは現場から退かねばならない。とくに経験のある人ほど、許容線量を超えていくから現場から離れざるを得ない。残った人たちは作業に詳しくないことが多いであろう。
強い放射能のために、10分とか20分とかわずかの時間しか作業に使えず、別の人に作業をバトンタッチすることになる。原発のことがよく分かっていない人も作業員として集めているという。
この現場の作業員が年間の許容線量を次々とオーバーしていくから、それらの人たちは現場から離れることになる。
作業員の不足こそ、今後の原発処理の大きな問題点として浮かびあがってきた。作業員がいなかったら、どんなに専門家が指図しようとも現実には作業ができなくなる。
そして、作業員は各地の原発からも集めてきたが、福島原発で放射線を規定以上浴びた者は、その年はもはや自分のもといた原発に帰っても働くことができない。というわけで、経験ある作業員を次々と福島に連れてきて働かせるということにも大きな限界がある。それで、日本全国から、ときには一般の建築作業だと欺いて現場に連れてくるといったことまで発覚している。
このように、だれも予想もしなかった事態が次々と生じていくのが、この原発問題なのである。チェルノブイリよりはるかに深刻なのは、日本では世界にほかに例のない、地震の多発地帯であるうえに、数千万という人口が密集している日本の心臓部といえる東京を中心とする大都会が200キロ余りの近くにあるということである。
こうした最悪の場合には、日本全体が破局的事態となる、ということは意識的に隠してきた。日本では、過去何十年という間にわたって、原発の避難訓練はわずか3キロ〜10キロの範囲でしかやったことがなかった。それは、もし30キロの範囲で避難訓練するとしたら、そんなに広範囲の大事故が起こるのかという疑問が住民のあいだに生じて、絶対安全といった主張は間違っているのではないかと疑いを生じさせるからだった。
自分たちの権益を守るために、電力会社、国、科学者、行政、教育、そしてごく一部の例外を除いて裁判所に至るまで、何もかもが、真実を覆い隠して、ひたすら安全と唱えてきたのである。
それゆえに、私たちは最悪の場合、いかなる事態が生じうるのかを、いつも確認し、それだからこそ、原発を継続することは決してしてはならない、という強い主張をしなければならないのである。

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