リストボタン地震と原発

福島原発の大事故の原因について、繰り返し津波だと言われてきた。そして、地震が重大な原因となっていることには触れようとしない。政府も同様である。
それは、もし、地震が今回の大事故の大きな原因であれば、日本のすべての原発は、その対策のためには単に、非常用電源を高所に移すとか、防波堤を高くするなどの津波対策だけでなく、地震に対する安全対策を根本的にやりなおさねばならなくなる。
そのためには、相当の時間と経費がかかる。そして、どれだけすれば、今後の地震の対策になるのか、その地震がどのような規模のものが発生するのかが、明確でない以上、そうした巨大地震への万全の対策などは、容易なことではなくなる。
日本での地震は、世界の他の原発を持っている国々と比べると断然多く、地震から来る危険性は、比較にならないほど大きい。(*)

(*)日本では、地球の全地震の10%が集中する地震列島である。これは、日本の面積が、地球の表面積のわずか、0.073%程度であることから考えると特別に地震が多いのがわかる。

福島第一原発において、実際は、大地震により、原発に電力を供給していた6系統の送電線のうちの鉄塔1基が地震による土砂崩れで倒壊し、5号機と6号機が外部からの電気を受けられなくなった。
さらに、1〜4号機もまた、送電線の断線やショート、関連設備故障などにより、外部電源を失っている。
去年の4月13日の東京電力の清水社長(当時)の記者会見という早い段階から、公式見解で事故原因は未曽有の大津波だとしてきたし、政府などもそのように津波だけが原因であるかのように言っている。そしてマスコミもたいていは、それをそのまま報道している。
しかし、すでに去年の4月27日の衆議院経済産業委員会で吉井英勝議員(共産党)は、地震による送電線の鉄塔が倒壊したため、福島第1原発の外部電源が失われ、炉心溶融が引き起こされたことを追及している。
当時の、経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭院長は、倒壊した鉄塔が「津波の及ばない地域にあった」ことを認めており、この送電線の鉄塔が倒壊したことが、まず第一に炉心溶融につながるものとなっていたのである。
この鉄塔が倒壊しなければ、内部電源としての非常用電源が津波で使えなくなっても、電源を融通しあい全電源喪失に至らなかった。従って、炉心溶融にはならなかったのである。
 これに対し原子力安全・保安院の寺坂院長(当時)は、倒壊した受電鉄塔が「津波の及ばない地域にあった」ことを認め、全電源喪失の原因が津波にないことを明らかにしている。
(2011年4月30日(土)「しんぶん赤旗」、インターネットによる衆議院経済産業委員会の録画などによる)

この外部電源の問題とともに、原発の配管がまず、地震によって破壊された可能性が高いことが早い段階から、原子炉設計にたずさわっていた専門家から言われていた。原発の配管は、総延長が80キロメートルにも及び、その溶接箇所は、2万5000箇所もあるのだから、大地震によってそうした配管の破損がどこかで生じるという可能性が高いのである。
九州大学副学長の吉岡斉氏(*)は、「地震の揺れのために主要配管が壊れたかどうかは、実際に見てみなければ分からない。…津波対策だけしっかりやれば、大丈夫などということはあるはずがない、というのが、事故調査・検証小委員会での共通認識だと思う」と語っている。(「AERA」12月12日号 朝日新聞社 )
(*)東京大学理学部物理学科卒、九州大学教授。事故調査・検証小委員会のメンバー。

そして、福島第一原発の4号機の圧力容器の圧力容器詳細設計などを手がけた、元原発設計技術者の、田中三彦氏は、「科学」(岩波書店)に掲載した論文には、地震によって配管が破壊されたために、冷却剤の水が、失われるに至ったのでないかと推論している。 そのことは、格納容器の圧力変化や推移変化の記録、運転員のとっさの記録などから、津波が襲ってくる以前に、地震によって主要配管の一部が破損していた可能性が高いと結論付けている。
その配管の破損から、冷却剤(水)が、噴出しはじめ、そのため、原子炉の水位が急速に低下し、その結果、最終的に燃料棒が水面より上に出て、燃料損傷や炉心溶融が生じたのではないか。
(「世界」2012年1月号 岩波書店刊。108〜110頁)

この可能性が高いにも関わらず、東京電力や政府は、まったくこのことをはじめから考慮に入れない方針を取っている。去年の12月2日に、東京電力は、福島第一原発の事故調査に関する中間報告を公表した。そのなかで、やはり、地震による機器の損傷はないとしている。(二〇一一年12月の新聞報道)
このように、東京電力や政府は、地震の影響を無視しようと一貫した姿勢がある。それは、地震の影響によって福島第一原発の事故が起こったことを認めると、ほかの原発もみな、地震が起きると事故になる可能性が高いことを示すことになり、全面的に安全性を見直さねばならず、そのための補強などということになると、相当な時間と費用がかかることになる。
それゆえに、原発の事故原因を津波だけと断定されると、非常用電源を置く場所を高くし、防波堤だけを高くすれば再起動できる。再起動を何がなんでもやろうとする勢力にとっては、津波だけが原因だとするのが万事において好都合となる。
先ごろ、首都直下型などマグニチュード(M)7クラスの地震が、南関東で4年以内に発生する確率は70%に高まった可能性があるとの試算を、東京大地震研究所が明らかにした。
南関東でのM3〜6の発生頻度は、昨年5月時点で大震災前の約6倍に達し、現在も約5倍と高い。
 同研究所の、平田教授は「大震災でひずみが解放され安全になったと考える人もいるが、地震の危険度は依然高く、防災対策をしっかりやるべきだ」と指摘している。
 このような地震予測は、必ずしもその予測通りに起こるということではない。東北大震災も予測できなかった。
しかし、大地震の後、数年は余震というかたちで大地震が再度起こる可能性が以前から指摘されている。
福島原発に再び大地震が襲うなら、原発にさらなる破壊が起こり、現在行われているいろいろな冷却などの作業ができなくなり、絶えず発熱する大量の燃料を貯えているために、再度大量の放射能が放出たれる危険な状況に陥る可能性もある。
 この地震による損壊は、ほかの日本中の原発に対して言えることであって、それゆえに、電力会社や政府なども地震による原発への影響を語ろうとしないのである。
原子炉、格納容器、配管などの損傷がどの程度あるのかについては、放射能がきわめて高いので、現実にそれらを直接に見て調べることができないゆえに、都合のよい推論だけを取り上げて、津波だけが原因であるかのように言っているのであって、より根本にある、地震によって生じる原発の危険性を忘れてはならないのである。


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