詩集 第12集

2010年 「風の歌」


 風のタクト
 

神様が風のタクトを振られると

波が歌う

木々が歌う

山が歌う

野原が歌う

 

ベランダの

洗濯物まで

讃美を歌う

 

神様の風のタクトをじっと見て

ともに歌おう

風の歌 

 

 

積乱雲

 

真実な祈りは

地の上から

積乱雲となって立ち上り

白く輝き

天に昇る

たったひとつの

 

アメリカの大人も中国の子供も

ああ、いいお天気だな、と見上げるのは

たったひとつの同じ太陽

 

ヒマラヤのおねえさんも日本のおじいさんも

きれいな夜だねと

見上げるのは

たったひとつの同じ月

 

国が違い言葉が違い

どんなに文化が違っても

キリストを信じる人たちが

見上げているのは

たったひとつの

主の十字架 

  

夕焼け

 

美しいうす紅色の夕焼け空

いつか帰る国

いつか必ず帰る国

 

大空はその世界を映す窓

 

この美しい夕焼けの向こうに

必ず行くことができる

そして

待っていてくださる方がいる

 

 

レンタル 

 

わたしたちの手も足も頭も口も

すべてレンタル

期間限定で神様から借りている

 

お返しする日

天の窓口でチェックを受ける

 

どんなにぼろぼろになっていても

何も言われない

ただ

何のために使ったのかが

この窓口では問われる

 

 

訓練

 

失敗した!

それは、失敗にめげない訓練

 

ひどいことを言ってしまった

それは正直に謝る訓練

 

突き刺さるつめたい言葉

それは祈って受け止める訓練

 

もう無理。限界。

それはじっと待ち望む訓練

 

いつの日かすべての訓練に答えをくださる

神様は愛

それが答え 

 

 

神の演奏

 

 立ち上がる白い波の鍵盤を

 弾き放つ神の御手

 清らかな波のピアノソロ

 

 クスノキの木の葉の聖歌隊を

 ダイナミックに指揮する神の御手

 荘厳な木の葉と風のシンフォニー 

 

 

 

 

朝、仕事場の駐車場で

緑の木々に向かって祈る

木々は黙って聞いている

 

それから車を降りて

眉山を見上げながら

病院に入る

眉山は黙って見ている

 

白衣に着替えて

精神科病棟の重いドアにカギをさす

主イエスは黙って一緒に入ってくださる

  

 

 あなたの苦しみに

 

あなたの苦しみにわたしはなすすべもない

そしてわたしは

勤務が終われば病院という職場を離れる

 

患者さんであるあなたの苦しみに

わたしはなすすべもない

 

ただこうして、夜の中で

今、あなたの苦しみを思う

 

おそらく絶望のなかで

夜を迎えているあなたのことを思う

その

重く覆いかぶさる暗雲の向こうに

光があり

その光はあなたに向かって注がれているのだと

知ってほしい

 

どうか主よ

今夜、夢の中にも現れてください

絶望から過去も未来も人も自分も呪ってしまわないように

どうか主よ

今夜、あの子の夢の中で御語りください

 

 

応援団

 

夜勤のために職場について

車から降りると

深夜

いっせいに木々のエールが

わたしを励ます。

 

このままじっと聞き入っていたいけど

行かなくちゃ

 

エールを背に受けて

西病棟入り口自動ドアに向かう

 

ありがとう

午前0時の応援団 

 

 

仕事が終わって

 

仕事が終わって、白衣から私服に着替えて病院を出る

眉山を見ながら駐車場まで歩く

車までたどり着いたらドアを開け、

座席に座ってバタンとドアを閉めたとき

やっと仕事が終わった気持ちになる

 

うまくいかなかったことの方が多かった

あの言葉はよくなかったかもしれない

けれど、あの人の笑顔がうれしかったな

忘れていることはなかったっけ

いろいろな思いが心をよぎる

 

守られた。感謝の祈りを捧げて

さあ、帰ろう。

後ろから眉山がじっとわたしを見ている 

 

 

 落ち葉の布団

 

樫の木は

木の葉を落として土を覆う

もうすぐ冬が来るからね

 

いちめんに敷きつめられた

落ち葉の下には

たくさんの小さな虫たちがいっぱい

 

ありがとう。落ち葉の布団

寒い冬でもあったかい

雪が降っても眠れるよ

大きな樫の木

ありがとう 

 

 

 壁画

 

塀に映し出された

ケヤキの影

幹も小枝も木の葉もくっきり

それから枝で遊ぶ小鳥まで

 

太陽の光が書いた

一枚の影絵の壁画 

 

 

冬の木の祈り

 

冷たい風の吹きつける夕暮れ

もうすぐ夜がやってくる

それでも

まっすぐに立ち

手を挙げて祈る

冬の木よ

 

あなたのその強さは

天に伸ばした枝の先に

神様の手が優しく触れているからだ 

 

 

 冬枯れの木

 

 

葉を落とし

幹から伸びた素肌の枝を天にかざして

祈る冬枯れの木の美しさ

 

飾ることのない心で

神の国をじっと見つめて

時を待つ

 

一人きり、

葉を落とした冬の木の

祈る姿の清らかさ  

 

 

神に向かう

 

川が流れていく

鉄橋の上を列車が走る

土手の上、ススキをなでて風が吹き抜ける

 

川と列車と風

みんな神様に向かっている 

 

 

 吉野川橋

 

静かに流れる川の上

吉野川の橋を

人は渡る

きょうも渡る

 

疲れ切った心が渡る

喜び勇む心が渡る

不安でいっぱいの心が渡る

感謝にあふれた心が渡る

 

変わりゆく人の心を

じっと見つめて

変わらないものを示しながら

川はきょうも静かに流れる 

 

 

 

 

風のない日

 

工場の煙突から

まっすぐに煙が空にのぼる

 

わたしの祈りもあのように

まっすぐに

まっすぐに

のぼってゆけばと願う

 

 

 晩秋のひまわり

 

晩秋に季節はずれのひまわりが咲いている

急に降り出した雨

ひまわりには冷たかった

 

ひまわりは

明るい光をいっぱい浴びたかった

ほんとうは夏の花だから

 

でもひまわりは

じっと立って咲いていた

やっぱりきれいに咲いていた 

 

 

 もうこれで

 

もうこれでかんべんしてください、主よ。

わたしがもろく弱く惨めなことをどこまでも知らしめようと

次々と訓練してくださるけれど

もうかんべんしてください、主よ

こんな小さな試練で気落ちして、祈ることもできません

 

それでも主よ、あなただけがわたしの救い

ほかに救いはないのです

 

ほほえんでください、主よ

ふたたびそば近くきてくださり、この心の中に住んでください

 

あなただけがわたしの救い

ほかに救いはないのです 

 

 

 立ち直れない

 

立ち直れない

祈れない

どうにもならない心を抱えて

うなだれる夕暮れ

 

それでも

空は呼びかける

野の花はささやく

風は抱きしめる

神の愛はここにあると

 

 

 

 エデンの園

 

急いでいるのに前の車は進まない

ああ、また信号が赤

イライラしながら

ふと窓の外を見る

 

雨上がりの緑の野原

美しい山々

ああ

ここはエデンの園

カナンの地

神に愛されているのだ

 

つぶやくのはやめよう 

 

 

  サクラの花びら

 

サクラの花びら

風に吹かれて

小道をサラサラ

みんなでかけっこ

 

サクラの花びら

川に流れて

岸辺をスイスイ

みんなで水泳 

 

 

葉桜

 

 

日本中が桜のつぼみを見張って

開花を待っていた

桜前線

春風とともにふわぁっと咲いた桜の花は

春風とともに通り過ぎていった

 

誰も振り向かなくなった桜の木に

今、光るような緑の葉

騒がれることもなく

静かに、安心して輝いている 

 

 

犬が鳴いて

 

真夜中に飼ってる犬が鳴いて目が覚めた

クウンクウンと泣き続ける

どしたのかな

寒いし 眠いし 明日も仕事…

でも、気にかかる。

 

階段を下りて外に出る

とりあえずエサなどやってなだめたり叱ってみたり

泣かないでよと頭をなでて部屋に帰る

 

犬でさえ、夜中であっても鳴いているとそこに行く

それならば

神に向かってわたしたちが呼べば

来てくださらないわけがないと

犬に起こされながらうれしくなった 

 

 

イチョウの旅

 

雨上がり

前を行く車のぬれた車体に

イチョウの葉っぱがくっついている

イチョウの葉は寄り添って

くっついたまま運ばれていく

 

「どこに行くんだろうね」

「こんなに遠くに行くなんてね」

「山に帰りたいな」

「大丈夫だよ。運ばれていくところが、

きっといちばん、いいところなんだよ」

 

イチョウの葉っぱをくっつけて車は走る

車は目的地を知っている 

 

 

  一輪挿し

 

子供の頃

母はわたしの机の上に

花を一輪飾ってくれていた

 

花のように彩られた

美しい紅葉のケヤキが一本すっくと立っている

神様が地の上に飾った一輪挿しのようだと

ふと、母を思い出した

 

母の愛

神の愛

美しいケヤキの木を見ていたら

召された母を思い出した 

 

 

 一瞬の夜空

 

仕事帰りの夜の国道

急に降り出した小雨が

車のフロントガラスに広がって

対向車の光を受けた

 

一瞬

フロントガラスは

満天の星空

 

 

 

 黄砂

 

中国からたくさんの若い研修生が大学病院に来た

その日、黄砂で空がかすんだ

 

遠く旅した中国の

青年たちが心配で

中国の砂

海を渡って

追ってきたのだ 

 

 

 帰り道

 

いつもの仕事の帰り道なのだけれど

なんて慈しみに満ちた夕暮れの空

 

その下には

水田の稲苗 

土手の脇にはカラスムギ

いっせいに揺れてわたしに語りかけてくる

 

いいんだよ

そのままで、いいんだよ

 

夕焼けと稲苗とカラスムギに包まれて

赦されていると知らされる帰り道 

 

 

 夜勤前

 

夜勤に行く前の重い心

車から出る前に祈る

何があるかわからない

すがる方は主よあなただけです

五月の久しぶりの強い雨

車の上に降り注ぐ強い音

わたしの車全体を叩く雨音が

神様からのメッセージ

共にいるからという

力強いメッセージ

さあ

行こう。

 

 

愛車

 

特別、車に関心があるわけではないけれど

ちょっと愛おしい

わたしのダイハツムーブ

夜中に仕事が終わっても

朝に仕事が終わっても

置いたところで

じっとわたしを待っている

暑くても

寒くても

じっとわたしの帰りを待って

ふう…と車に乗り込むと

お疲れ様

と迎えてくれる
 

 

 イチョウの木

 

イチョウの木

緑から黄色へ

秋の深まりとともに美しく繰り広げられる

グラディエイション

やがて

すべての木の葉が輝くとき

イチョウの木

思いがあふれて

金色の扇を天に放つ 

 

 

トウダイグサ

 

こんな砂利のうえ

どこに根をはって

花をさかせているのだろうか

 

月の色した星の花

 

可憐な花の

おかれた場所は

じりじり暑い

砂利のうえ

 

それでも笑顔で咲いている 

 

 

  ひかり

 

雲の上から

わたしに語りかける光は

わたしの悲しみも痛みも

声にならない叫びも

すべてを

知っていてくださる

 

雲の上から

わたしに呼びかける光は

わたしの心の闇の中に来て下さり

もういいのだよ

ここに来なさいと

わたしを引き上げて下さる

 

 

体の中

 

わたしの体の中には

いろいろな内臓などがあるのだろうけれど

神様が透視されたときには

ただ

十字架だけが

建っていてほしい 

 

 

月夜にひとり

 

月夜にひとり

神にむかう

だれもいない

ただ

神様とわたしと

 

祈りのことばは

ことばとならず

 

月夜にひとり

ただ

御名を呼ぶ 

 

 

流れてくるもの

 

窓を開けて

空を見上げる

神様と心がつながる

手をのばす

見えない手が触れあう

触れた手から

流れてくるもの

 

わたしはただ

この流れてくる愛によって

生かされている  

 

   十字架

 

胸のあたりに手を置いて

目を閉じて静まると

胸の中には

十字架がある

 

夜更けの窓辺に手を置いて

ひとりで夜空を見つめると

闇の彼方に

十字架がある

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