何日も歩き続けて、ようやく日本海に流れる由良川の源流地帯にたどりつき、そこで見いだしたのが、リンドウだった。
途中の困難さのゆえに、いっそうこの花の青い色とその姿が深く心に残り、いまなおそのときの状況がありありと思いだされる。
そのころは私はまだキリスト教信仰とは無縁だった。しかし、由良川源流の静かな流れのそばで咲いていたこの青紫の花は、神からの賜物だった。当時はどのルートをとっても長大な山や谷を歩いて超えていく必要があるために、この地域にはほとんど人は訪れない。じっさい、1日中早朝から夕方まで歩き、登りつづけたのに、一人も人間には出会わなかった日が何日もあった地域である。そのような隔絶したなかで静かに咲いていた。
耳をすますとそこから天来の音楽が流れてくるような―そんな雰囲気だった。 (写真・文ともにT.YOSHIMURA)
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