これは、山を少し登った所にあるわが家のフジバカマ(植栽)にやってきて蜜を吸っているアサギマダラです。
この蝶は美しく、しかも2千キロという長大な距離を海、山を越えて飛来していくという異例の能力を持つ蝶なので、多くの人に関心を持たれています。
先日、県南の家庭での聖書の学びを終えての帰途、道の駅で見つけた鉢植えのフジバカマを購入して夕方に帰宅、家の庭に置いていたところ、その翌早朝から、このようにアサギマダラが来て、一心に蜜を吸っていたのです。
一時は5匹が来ていて、しかも、朝から休みなくずっと夕方まで、この花からほとんど離れず、時折周辺をひらひらと飛んでは再びこの花に戻って蜜を吸い続けるーという状態でした。
そしてその翌日もまたさらにその翌日もアサギマダラの来訪は続いて、3日間ほどは毎日観察を続けることができたのです。
以前から、11月になってわが家の周囲に自生しているツワブキの黄色い花が咲くと、アサギマダラが時折飛来してくることはあっても、5匹も、しかも1日中とどまっているということは、前例のないことでした。
そしてこのアサギマダラの来訪前には、今年は一度もまだ見かけたこともないので、どこからどうして木蔭の下に置いてあるこの花にやってきたのか、実に不思議なことです。
文字通り一日中夕方までこの花にとどまっていたということは、よほどこのアサギマダラは、フジバカマの花の蜜を好むのだということ、そしてフジバカマの花から放出されるきわめて微量なある種の香り(化学物質)によって、おそらくかなり遠くを飛んでいたこの蝶が引き寄せられてきたのだと考えられます。アサギマダラは、フジバカマと同類のヒヨドリバナや、ヨツバヒヨドリも好み、私も剣山などの標高1700メートルほどの草地で群生するヨツバヒヨドリに多くのアサギマダラが来ていたのを思いだします。
フジバカマは現在では野生のものはまず見られなくなっていて、絶滅危惧種と指定され、日本での一般向けの野草図鑑としては、とくに重要な役割を果たしてきた700頁ほどの野草図鑑(山と渓谷社発行)でも、その写真は、自然のものでなく、植栽のものが収録されているほどです。
しかし、昔は、万葉集の時代に、秋の七草として、詠まれたことでわかるように、野山にごくふつうに見られたようです。
「萩の花 尾花葛花 なでしこが花 をみなへし また藤袴 朝顔が花」(山上憶良・万葉集巻8の1538 )(なお、ここでの朝顔の花というのは、キキョウと推測されています。)
極微量の化学物質を感知する特異な能力、弱々しく見える羽に2千キロも風雨に耐えて飛んでいくという力、そうした神秘をまとったこの蝶の背後に、そうした能力を与えた神の力がいかに大いなるか、また繊細なものかー天地を創造された神の全能の一端を思ったのです。
(文、写真ともT.YOSHIMURA)
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