福音 №430 2024年3月
「希望」
どんな事情があったか知らないけれど、引きこもり、何もせず、横になっているだけの人を訪ねるようになって5か月、さしたる前進もないけれど、歌だけはいつも一緒に歌ってくれる。「心の名歌集」というのを持っていくのだが、メガネが合わないのか「歌詞は読めない」というが、不思議なほど歌詞を覚えていて、この冬よく歌ったのは「寒い朝」。
♪北風吹きぬく 寒い朝も 心ひとつで 暖かくなる
清らかに咲いた 可憐な花を 緑の髪にかざして今日も ああ
北風の中に 聞こうよ春を 北風の中に 聞こうよ春を
「いい歌だねえ。もうすぐ春、春になったらお散歩しよう」。「うん」。
そんな会話をあてもなく楽しんでいるうちに、二人の歌のレパートリーも増えていった。
ほぼ賛美歌以外歌わない私も、昔の歌(これを懐メロというのだろうか)の歌詞がこんなにも心に響くことに驚く。
最近見つけた「希望」という曲。メロディーと最初の歌詞くらいは私も知っていたが、その人(Tさん)はスラスラと何も見ないで歌う。私は歌詞を目で追いながら、これはいったいどんな歌なのだろうと考えながら一緒に歌う。
♪希望という名の あなたをたずねて 遠い国へと また汽車にのる
あなたは昔の 私の思いで ふるさとの夢 はじめての恋
けれど私が 大人になった日に 黙ってどこかへ 立ち去ったあなた
いつかあなたに また逢うまでは 私の旅は 終わりのない旅
こう歌っていると、家の中でほとんど横になっているというTさんも、心は旅をしているのではないかとふと思った。「Tさんはどこへも行かないけど、でも心は、毎日旅をしているのと違う?」と言うと、「そうかも知れん」と静かにうなづく。
♪希望という名の あなたをたずねて 今日もあてなく また汽車に乗る
あれから私は ただ一人きり 明日はどんな 町に着くやら
あなたのうわさも 時折聞くけれど 見知らぬ誰かに すれ違うだけ
いつもあなたの 名を呼びながら 私の旅は 返事のない旅
「希望という名のあなたをたずねて」とくり返していると、私にとって「希望という名」のお方はただ一人、テモテの手紙1の一章一節、
「わたしたちの希望であるキリスト・イエス」以外にはないと、何を歌っても賛美歌のような気分になってしまう。
「あなたのうわさも時折聞くけれど」・・・希望のうわさ・・・「希望をなくしてはいけません」「希望をもってがんばってください」と聞いてふり返ってみても、希望という名のあなたはいない。
♪希望という名の あなたをたずねて 寒い夜更けに また汽車に乗る
悲しみだけが 私の道連れ となりの席に あなたがいれば
涙ぐむとき そのとき聞こえる 希望という名の あなたのあの唄
そうよあなたに また逢うために 私の旅は いままた始まる
「悲しみだけが私の道連れ」
「悲しむ人々は、幸いである。その人たちは慰められる。」マタイ5:4
人間にとって一番深い悲しみは、愛する人を亡くすことだという。イエスさまも、愛するエルサレムの崩壊を預言されるとき「イエスはその都のために泣いて言われた」。ルカ19:41
なぜ、悲しむ人が幸いなのか、悲しむ人は愛する人だから。「愛さない人は真の悲しみを知らない」と聞いて胸が痛くなる。神の愛によって造られた私たちが、もし、愛することも悲しむことも知らずにいるなら、イエスさまの悲しみは計り知れない。
1匹の失われた羊を探しに行かれるイエスさま。たとえ話では、100匹の羊飼いが、99匹を残して1匹を探しに行くのだが、「イエスさまは1匹のために、9999匹を残してでも、いや、99999999匹を残してでも捜しに行かれるんです」と聞いたとき、声も出なかった。
「となりの席に、あなたがいれば」、希望という名の、そのあなたの傍にいたい。
そう思ったとき、イエスさまの呼び声が聞こえる思いがした。
「疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう。わたしは柔和で謙遜なものだから、わたしの軛を負い、わたしに学びなさい。そうすれば、あなたがたは安らぎを得られる。わたしの軛は負いやすく、わたしの荷は軽いからである。」マタイ11:28‐29
先日読んだ、イエスさまの軛についての説明を思い出す。
「彼の良き軛そして軽き荷とは誰もが幼子の如くであればもちうる信であり、イエスは単に言葉のみではなく自らと共に生を歩むよう励ます。」(先行する神の憐みへの信仰より)
幼子のように父なる神さまを信じ、イエスさまと共に与えられる一日一日を歩んで行こう。
ここまで書いて眠って、今日は金曜日。桐ヶ丘集会の聖書個所はヘブライ人への手紙13章。予習はその日の箇所を何回でも読むこと。すると、昨夜の答えがあるではないか。
「わたしたちはこの地上に永続する都を持っておらず、
来るべき都を探し求めているのです。」ヘブライ書13:14
来るべき都、天の故郷をめざして、Tさんと共に今日も新しい旅の始まりだとうれしくなる。