嘘と真実 02-9-5
最近のニュースで大々的に報道されたこと、外務省関係の問題、鈴木宗男議員に関係する問題、秘書給与の流用問題、雪印食品のこと、日本ハム、そして東京電力など一連の事件は、みな何らかの嘘が関わっている。政治家たちが、国のため、地元住民のためなどといいながら、実は自分の利益のためにやっていたというたぐいの嘘は昔からいくらでもある。
長い伝統のある会社が、わずかの期間に行った虚偽によって無惨につぶれてしまった。
さらに北朝鮮でも日本人の拉致などないと言い切っていたにも関わらず、それを国家の代表者が認めたことで、国家自体が大きな嘘を長年にわたってついてきたということも明らかになった。
あれほど明白に拉致などやっていないと言い切っていたにも関わらず、掌を返したように、実は、拉致をやっていた、そして多くの拉致された人たちの命まで失われていたと明らかにして、謝罪した。
東京電力にしても、もう何年も前から原子炉の重要な部分に生じたひび割れなどのトラブルを隠して、虚偽報告をしていたことが、発覚して社長や会長などが辞任せざるを得なくなった。
こうした事実に接して分かることは、この世はいかに嘘が多いかということである。日本の代表的な企業であり、信頼されていたはずの会社が長い間信じられないような嘘をついてきたとかの事実を見れば、ほかの企業も同様ではないのかと当然疑いが生じてくる。
だが、こうした事件はある意味では当然生じることである。なぜなら人間そのものが不真実であり、嘘に満ちた存在だから、そのような人間の集団もやはり嘘が横行するということになる。
北朝鮮の拉致と死亡という事実に対して、当事者には、深い悲しみと、強い憤りが生じていることは当然の反応である。何の罪も犯していないのに、突然連れ去られ、どんな仕打ちを受けたのか分からない状態で、死亡したと知らされては耐え難い思いであろう。
日本は、今回のことで北朝鮮がひどいことをしたと声を大きくして非難しており、それは当然のことである。今後とも、なぜそのような仕打ちを受けたのかについての詳しい説明が必要であり、当事者たちへの十分な対応がなされねばならない。そして今回のことで、単に北朝鮮を非難、攻撃するだけでなく、二度とそのようなことが生じないようにするには日本としてもどうすべきかが問われている。
しかし、何かの問題が生じたとき、目先のことだけを見ていたのでは問題の真相は明らかにはならない。現在の問題は、過去から流れてきたのであり、つねに歴史的にものごとを見ることが必要である。
今回の問題においても、朝鮮半島と日本の関わりについて過去の歴史から学ぶ必要がある。
過去において日本はそのような拉致をしたことがなかったのか、拉致した人を殺害したことはなかったのだろうか。あるいは不法に他国の人々の命や財産を破壊したり奪ったことはなかったのだろうか。 それは少し調べるとただちに判明することである。
戦前は、日本が、十人、二十人といった程度でなく、桁違いの百万人以上の朝鮮半島の人々を拉致して、劣悪な条件での強制労働や従軍慰安婦などとして用いてきたと言われている。そしてこのようなおびただしい人々の苦しみに対して何ら償おうとしなかったのである。
また、中国に対しては、十五年ほどにわたる長い戦争において、それよりもはるかに膨大な人々を攻撃し、住居を破壊し、二千万とも言われる人々を殺傷していった。こうした想像を絶するような野蛮な行為の前には、今回の北朝鮮の拉致と死亡といったこともかすんでしまうほどである。
また、政府の嘘ということでは、戦争がはじまると、軍部や政府にとって都合の悪いことは、つぎつぎと嘘でごまかしていく。今から五十数年前には、太平洋戦争を引き起こしたが、わずか半年ほどたった一九四二年六月に、太平洋のミッドウェー海戦において、貴重な空母四隻、三二二機もの飛行機、そして三五〇〇人もの兵士が戦死するという、大敗北を喫した。
にもかかわらず、海軍はこの敗戦を完全に偽ってあたかもめざましい戦果をあげたかのような発表をした。マスコミもその偽りを発表した。こうして四年近くにわたる太平洋戦争ははじまってから半年ほどで軍部が国民に大きな嘘をついて、その後もこうした偽りが発表されていくことになる。
この太平洋戦争が起きる原因となった中国との戦争の始まりも、また嘘から始まっている。そのきっかけは、一九三一年の満州事変であった。それは奉天近くの柳条溝で満鉄の線路が爆破されたことに始まる。それは中国軍が爆破したのだといって中国を攻撃する口実とされて、中国との長い戦争が始まった。これが後の太平洋戦争へとつながってしまったのである。
しかし、これは実は日本の軍部が計画的に爆破したのであった。それを中国軍がしたのだと虚偽を発表した。
このように、中国をはじめとして、アジア、太平洋地域での十五年にもわたる長期の戦争が嘘から出発しているのであって、嘘がいかにはかりしれない害悪をもたらしたかを証明していると言えよう。
また、日本の基本方針となっているはずの、非核三原則とは、核兵器に関して,(1)持たず,(2)作らず,(3)持ち込ませずという内容を持っている。一九六八年に佐藤栄作首相が国会で答弁をして以来,国是として歴代政府によって受け継がれてきた。しかし、一九七四年には、アメリカの元海軍少将が、アメリカ両院合同原子力委員会で証言をして、核兵器を装備した艦隊が外国の港に入る時、核兵器をはずすことはないと言ったこと、また、一九八一年のライシャワー元駐日アメリカ大使がアメリカ艦船は核を積んだまま日本に寄港していると発言したことなど、重要な地位にあった人が公然と証言しているにもかかわらず、日本政府は、歴代の首相もそのような核の持ち込みはないなどと、強弁している。
これなども、政府が明らかな嘘を言っているということである。一方で、核を搭載した艦隊などは入らせないことは、日本の基本方針であると言っておきながら、アメリカで公然と高い地位にあった人物がアメリカ議会のような公的な場で、核を積んだ艦船が日本に寄港してきたと証言してもなおかつ、そんなことはないと主張している。
この問題はもともと、核兵器を積載して航行していると思われる,航空母艦,原子力潜水艦などが日本に寄港するときだけそれを取りはずすとは考え難いことから、ずっと以前から核を持ち込ませないということは、すでに偽りであることが指摘されていたのであった。
一部の食品会社が、外国の牛肉を有名な和牛肉だと偽って販売したり、政府からの補償金を虚偽によってだまし取ったとかの事件によってうっかりすると、あたかも嘘をやっているのは、そうした一部の者だとか北朝鮮だけが大嘘をつくテロ国家だと思いこむかも知れない。
しかし、実はすでに述べたように、こうした嘘は、日本のかつての政府にも現在の政府にも見られることなのである。
また、アメリカが正義の戦争だといって、アフガニスタンに対して報復の攻撃を行う際に、こともあろうに、正義の戦争だとか神の守りがあるようになどと言っているのも、大きな嘘がある。
なぜかというと、キリストは報復することは間違ったことだと明白に教えておられるからである。
このように見てくれば、大きな問題、国家的、世界的な困難や危険、戦争などもそのもとを突き詰めて調べていくとどこかに嘘があり、いたるところに真実に反することがあったために、人間同士、国家同士の憎しみが生じて、争いとか戦争という事態へと進んでいってしまうのである。
歴史を見ると、このような不真実、嘘をもって物事をなしていくことは、決して永続的なよいものを生み出さず、なにかのきっかけで滅んでいくのがわかる。虚偽はあるところまでは栄えることもあるが、突然崩壊してしまうじつにもろい本性を持っている。
他方、真実はいかに誤解され、中傷され、また真実を主張するものを殺すようなことがあっても、それによって決して滅びることはなく、かえってその真実の力は後世に伝わっていく。それは神がそのようにされるのである。その典型がキリストであった。
人間社会の嘘に満ちた状況に対して、キリストは真実な世界があることを宣べ伝えるために来られた。私たち自身は決して世の中全体にしみこんでいる嘘の体質から完全に出ることはできない。
それならどうしたらよいのか。それはそのような嘘、不真実な本性そのものを主イエスが担って十字架にて死ぬことによって、私たちの身代わりになられたのである。
自国の正しさだけを主張し、他国の非を非難、攻撃するだけでは決して真の解決にはならない。歴史をふり返りつつ、双方に非があり、嘘があり、弱い立場の人々を犠牲にしてきたこと、罪があることに気付いて、双方が真実に立ち返るのでなければ本当の出発はできない。
私自身のことを振り返ってみても、聖書やキリストのことを知るまでは、人間そのものに宿っているこうした不真実な本質に気付かなかった。しかし、聖書の内容をより深く知り、キリストのことを知らされて、いかに人間は真実がないかを知らされたのである。そして聖書とキリストはそうした不真実な人間が真実なものとみなされる道が記されてあるのだと分かってきた。
キリストは不信の海のなかに、真実そのものの道をまっすぐに神の国に向かって備えてくださったのである。