リストボタン愛が冷える    2003/2

 戦争をやっても構わないという考え方は、相手の国の貧しい庶民がどのようになっても構わないという考え方が背後にある。それは主イエスが言われた、「愛が冷える」ことである。

戦争の騒ぎや戦争のうわさを聞くだろうが、気を付けて、うろたえないようにしなさい。そういうことは起こらねばならないが、まだ世の終わりではない。
民は民に、国は国に敵対して立ち上がり、方々に飢饉や地震が起こる。
しかし、これらはすべて産みの苦しみの始まりである。
そのとき、多くの人がつまずき、互いに裏切り、憎み合うようになる。
偽預言者も大勢現れ、多くの人を惑わす。
不法がはびこるので、多くの人の愛が冷える。
しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。(マタイ福音書二四・614

 一昨年のアメリカの世界貿易センタービルの破壊事件の報復として、アメリカが武力報復を唱えて実行したために、いっそう武力報復ということがあちこちでなされるようになってきた。
 イスラエルとパレスチナとの相互の武力報復とテロの悪循環はいっそうそのひどさを増しているし、ロシアとチェチェンとの紛争も同様である。
 さらにイラクに対する報復戦争が行われようとしている。こうした一連の動きの行き着く先はどうなるのか、何が待っているのかだれも知らない。
 もしこのような武力による報復ということを世界の国々が同様にやっていったらどうなるのか、日本の政府を代表して発言する立場にある官房長官が、日本も核兵器を持つようになることも考えられるなどと、言ったことがある。平和憲法とそれに深く結びついている非核三原則を真っ向から破るようなことを、こともあろうに政府の代表者がごくさりげなく言うのである。 
 このようにしてつぎつぎと核兵器を世界の国々が持つようになったらどうなるのか、何が生じる可能性が濃厚になるのか。
 核兵器を持つとか武力をいっそう整えるといった主張は、もし外国が攻撃してきたらどうするのかという恐れがつねにもとにある。しかしその危険性と、武力をどんどん貯えて、それを他国も真似て世界が核兵器を装備した軍備拡張の競争となっていったときの危険性といずれが大きいのか、ということである。
 何もしていない国、平和を実践すべく、核兵器も持たず、いかなる戦争行為も行わないことを国是とし、他国の平和や教育、医療や、生活一般への援助を絶えず強力に押し進めている国があるとして、そのような国に、現在の世界の状況からみて、いったいどのような国がミサイルを撃ち込むというのか。
 武力報復は間違っているという主張がどうして通らなくなるのか、それは戦前と似ている。相手をできるだけ悪い者とみなし、それによって人間の攻撃心を刺激し、武力攻撃を正当化しようとする。
 しかし、実際に大きな悲劇的事態に直面するのは、政治の表面に立っている政治家でなく、一般の庶民、貧しい人々なのである。
 ある国が攻撃してきたらどうするのか、軍備を整えていなければ滅びるのではないか、といって軍備、ことに核兵器を持とうとする考え方をどの国も持つようになったらどうなるのか。こういう考え方を延長していくとどうなるのか。それはますます世界が核戦争の脅威にはまりこむということである。アメリカのビル爆破は通常の飛行機でなされた。しかし核兵器があの場に落とされたら、その被害の甚大なことは、到底あのようなビル爆破とは比較にもならない。
 ある国が危険だといって核兵器をますます世界の国々が持っていく方向はそうした危険な方向に進むことに他ならないのである。そうした核兵器は絶対に用いてはならないものであり、そうした方向でなく、たえずよきことを計り、国際的に発言し、そのために多くの労力と費用を用いていくこと、それが危険の伴わない、双方の国の庶民にとっても一番よいことなのである。
 戦争が起こるのではないか、たえずそのことが議論される今の時代を、二千年前にすでにキリストは預言していたと言える。
 すでにあげたように、キリストは「民は民に、国は国に敵対して立ち上がり、方々に飢饉や地震が起こる。」と言われた。どの時代にもこうした状況は見られたのであるが、現在の日本や世界においても、国は国に敵対して起こるとか、地震や飢饉などが生じるといったことは、あたかも今言われたかのように現実味を帯びてきている。
 こうした危険性の到来も必ず起こることだと言われているが、他方で、神を信じて最後まで希望をもって耐え忍ぶ者は救われるという約束もまたなされている。
 神を信じるとは、朽ちる希望でなく、神に根ざす希望を与えられていることであり、どのような事態があってもなお、過去の二千年の間もそうであったように、キリストを信じる者には必ず救いの道が示され、この世界が最終的には光が支配するようになるという希望に満ちた世界を知らされているのである。
 そして周囲にいかに愛が冷えていくことがあろうとも、人間を越えた神からの愛をうけて生かされる道が示されている。
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