ミサイル防衛計画(MD)の問題点 2008/1
北朝鮮がミサイルを発射した二〇〇六年七月以降、日本のミサイル防衛計画が急に巨額の費用を用いてなされていくことになった。
これは、例えば北朝鮮がミサイルを発射したときに、日本海に配備しているイージス艦(*)がそれを途中で打ち落とし、それに失敗したときには、陸上に配備している、ミサイル(**)で打ち落とそうという計画である。
(*)イージス艦とは、レーダーやコンピュータを用いて、空や陸、海からの攻撃を探知して、攻撃できる高性能の護衛艦。これを持っているのは、アメリカ、日本、スペインの三国のみで、一隻を作るためには千四百億円という巨額が必要とされる。なお、MDとは、Missile Defense の略語。
(**)パトリオット・ミサイル(PAC3)
外国から飛来してきたミサイルを狙って発射するミサイル(SM3)によって守るというが、相手国が、複数のおとり弾を発射してくればとても対応できないと言われている。アメリカが実験で成功したというのは、そうしたおとり弾も使わず、あらかじめ設定されたミサイルの弾道をもとにしているから実際の状況とはちがっているので信頼できる実験とは言えないと言われている。
また、現在は日本では四隻のイージス艦があるが、そのうち二隻は訓練や整備のために使えないので、常時日本海に置けるのは二隻程度だという。
このような状況ではもちろん到底日本の防衛にならない。日本をカバーするには、十六隻も必要だと防衛省の専門家は言っているという。一隻が千四百億円という巨額なものをそのように整備すること自体なすべきことでないのは明らかだ。
ミサイル防衛計画を構築していくことはきわめて困難でかつ、高価であるのに対して、そうした防衛体制をすり抜けるようにして次々と発射することでそんな防衛体制をくぐり抜けるようにすることは容易なのである。
それゆえに、正確に一発も残らず海上で打ち落とすということはきわめて技術的にも困難な課題となる。それはピストルから発射された弾丸をピストルで打ち落とすようなもので、ほとんど「手品」のようで、使い物になるにはアメリカでもまだまだ膨大な費用をかけて十年はかかると言われているほどである。
しかも、そのミサイルが一発でも迎撃し損ねたら、致命的な打撃を大都会に与えるとなると、百発百中でなければならないというきわめて厳しい要求がなされてくる。
このように途中で打ち落とすことは技術的にも、費用の点でもまた、その発射がどこに向かっているのか確定できないなどきわめて困難な問題を内蔵しているから、打ち落とすことができずに、日本に向かってきたミサイルを地上からミサイルを発射して打ち落とすというのが、もう一つの柱である。しかし、その地上から迎撃するミサイルが防御できる範囲は、そのミサイル発射装置を備えた付近のほぼ真下にミサイルが落下してくるときだけ撃ち落とせる可能性が高まるといった程度なのである。音速の十倍(秒速約三・四km)もの速さで落下してくるミサイルを横から迎撃することは極めて困難であり、落下してくる真下の狭い領域しか守ることはできない。
それゆえに、軍事評論家によれば、確実に迎撃できる範囲は五㎞ほど、広く見積もってもせいぜい十㎞程度だという。
(週刊朝日二〇〇六年七月二八日号による)
それゆえに、日本全土をカバーするためには、非常に高価なミサイルを何万台も購入して全国に配備せねばならないというが、そんなことはできるはずがないのである。
このように、技術的にも費用の面でも非常な無理がある。
さらに、ある国がミサイルを発射したとしてそれがどこに向かうのか、例えば、アメリカのグアム島の基地に向かっているのか判別できないときに、それが未知のままで撃ち落とすということになると、それは憲法が禁じている集団的自衛権を行使することにつながる。それによってアメリカと軍事的に一体化した国とみなされて戦争に巻き込まれていくことになる。
また、以前の法律では、安全保障会議、閣議を経た上で首相が「防衛出動」を命令し、それによって迎撃ミサイルを発射するという手順であったが、北朝鮮からのミサイルを想定すると一〇分ほどで到達するからそれでは遅すぎるとされ、緊急の場合には、防衛庁長官が現場指揮官に迎撃するミサイルの発射を事前に命じておけるようになった。
そしてこのような方向を押し進めていくと、そのうちにまだ発射していない段階から基地を攻撃するといったことまで想定されるようになるのではないか。それは戦争を開始するということにもつながっていく。
また、技術的にも難問を抱えているものに莫大な経費を投入することは、軍事関連産業に巨額の利益を与え、そこに今回の防衛省の不正のような問題が入ってくる危険性も大きくなる。
このようなさまざまの問題点を持っているミサイル防衛ということを押し進めることによって、ますます憲法九条の非戦・平和の精神から離れていく。そして日本とアメリカの軍事的一体化がすすめられ、アメリカがどこかの国と戦争を始めるとき、そこに軍事的に協力していく可能性が高まり、全体としてみるときテロの攻撃を受ける危険性も高まる。
このような方向とは逆にそのような巨額の費用を軍備にあてるのでなく、アメリカとの軍事的な関係を弱めつつ、日本の国内も医療や格差の問題が深刻になっているのであるからそのような方に費用に充て、国際的にも、内乱、戦争、貧困や病気で苦しむ国々が多数あるのであって、そのような国々への福祉への協力を強く推進していくこと、そして絶えず平和的な話し合いを続け、それを前面に出していくこと、憲法九条の平和精神を固守していくならば、そのようなミサイル防衛よりもはるかに効果的な、平和的防衛システムとなるだろう。