沈黙のなかで    2008/3

ある冬の終りのころの夕べ、山の冬枯れの木立を歩いていた。だれひとりいない静かな山であった。
左右上下にさまざまの方向に枝を出した木々が、夕日を浴びてそこにあった。それらはじっと見ていると、語り合っているのであった。
その大小さまざまの木々、枝、それらの会話が聞こえるかのようであった。
沈黙していながら、語り合っている。
ときに、風が吹いて木々の枝によって音楽が奏でられる。あたりの常緑の木々の葉が鳴る。
私たちのこの世界もまた、その沈黙のなかでたえず言葉が交わされているのである。それは人間に向けられた神の言葉であり、また神にうながされ、聖霊に導かれた祈りの言葉である。
数千年の昔、聖書の詩人がうたったように。

話すことも、語ることもなく
声は聞こえなくても
その響きは全地に
その言葉は世界の果てに向かう(詩編十九より)


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