詩の世界から 2008/7
わが知る一人の友、
人生の秘儀を究めんとせるわが友は、
調子はずれの心の竪琴を
たゆまぬ精進をもて調子を正し、
信仰において惑えるも、行いを正し、
ついに心の竪琴に、いみじき調べを奏でしめぬ。
…
友は懐疑とたたかって力をたくわえ、(*)
思慮分別の眼を曇らせず、
心に浮かび来る幻影に相対して それを打ち倒した。
かくてついに彼自身の
さらに強き信仰が生まれ
暗い懐疑の夜にも、神の力とともにあった。
この力の神は光ある昼も、懐疑の夜をも創造されたが、
ただ光のなかにのみ居たもうにあらずして
暗闇と濃い雲のうちにも偏在したもうなり。
(「イン・メモーリアム」九六 テニソン作 )
(*)He fought his doubt and gather'd strength
He would not make his judgment blind
He faced the spectres of the mind
And laid them;thus he came at length
To find a stronger faith his own;
And Power was with him in the night,
Which makes the darkness and the light,
And dwells not in the light alone,
But in the darkness and the cloud,…
・作者テニソンの友人のことを歌っているが、これは作者自身の経験でもあっただろう。しばしば神の愛や存在そのものをも信じられなくなるこの世の懐疑の波にほんろうされることがあっても、なおその経験によって強い信仰へと導かれていった。
詩人の信じる神は、単に光の射していると思われるところだけにいるのでなく、この世のどのような暗黒のなかにあってもそこにおられる神なのである。ここに私たちの希望がある。
・テニソン(1809年~1892年)イギリスの代表的詩人の一人。父親は牧師。1850年ウィリアム・ワーズワースの後継者として桂冠詩人となった。「イン・メモリアム」は、親友の死をいたんで作られたもので、研究社版の英文テキストでは146頁にも及ぶ長編の詩。
この詩の冒頭は、つぎのような有名な言葉から始まる。これは「つよき神の子 朽ちぬ愛よ」で始まる讃美歌二七五番に取り入れられている。
強き神の子、不朽の愛よ、
我らはあなたのみ顔を見たことはない。
ただ信仰によって信仰によってのみあなたにすがる。
証しは立たぬながらも、ひたすらに信じつつ。
Strong son of God,immortal Love,
Whom we,that have not seen thy face,
By faith,and faith alone,embrace,
Blieving where we cannot prove;