○星の世界 木星、文部省唱歌
夜の10時ころには、木星の強い光が、南東の高い空に見え、その左に(東寄り)には、昔から「すばる」と言われ、知られている有名なプレヤデス星団がみられます。そしてその下方には、牡牛座の一等星アルデバランがその赤い光で輝いています。 すばるは、牡牛座に属しています。さらに、北東の空には、御者座のカペラという一等星がかなり強い光でみられるようになっています。
なお、正確には、カペラは、0・1等で、日本でふつうにみられる恒星のうちでは、おお犬座のシリウス、牛かい座のアークツルス、こと座のベガについで4番目に明るい星ですから、よく目立ちます。
なお、アルデバランは、0・8等星、恒星で最も明るいシリウスでマイナス1・5等星に対して、木星は、最も明るいときでは、マイナス2・9等ですから、シリウスよりはるかに強い光で見えるわけです。 明るさの等級が、一等上がると、2・5倍の明るさになります。
星の世界に見入るときには、地上のものの何よりも永遠と清い世界へと導かれる思いがします。
星の世界というと、思いだされるのは、讃美歌としては最も日本で広く親しまれている「いつくしみ深き」(讃美歌312番)です。この讃美歌の曲が日本に取り入れられ、文部省唱歌として長く親しまれきたので、日本人ならほとんどだれでもこのメロディーを聞いたことがあるというほどです。
月なきみ空に、きらめく光、
嗚呼(ああ)その星影、希望のすがた。
人智(じんち)は果(はて)なし、
無窮(むきゅう)の遠(おち)に、
いざ其の星影、きわめも行かん。
雲なきみ空に、横とう光、
ああ洋々たる、銀河の流れ。
仰ぎて眺むる、万里(ばんり)のあなた、
いざ棹(さお)させよや、窮理(きゅうり)の船に。
この歌の作詞は、鳥取県出身の杉谷代水です。これは明治時代の難しい歌詞で現代の人には分かりにくいものなので、後になって口語の訳として別に、川路柳虹が、つぎのようなわかりやすい歌詞をつくり、中学の音楽教科書に採用されています。
かがやく夜空の 星の光よ
まばたく数多(あまた)の 遠い世界よ
ふけゆく秋の夜 すみわたる空
のぞめば不思議な 星の世界よ
きらめく光は 玉か黄金(こがね)か
宇宙の広さを しみじみ思う
やさしい光に まばたく星座
のぞめば不思議な 星の世界よ
この曲の作曲者コンバースは、1832年生まれのアメリカ人。ドイツの音楽学校で学び、さらにアメリカの大学の法学部で学び、法学博士の学位を得て弁護士をしながら作曲にも取り組んだという異色の人。交響曲やオラトリオ、管弦楽曲なども作曲したといいます。
このコンバースが、ジョゼフ・スクライバンという人(1819年生まれ)の作った詩のために作曲したのが、「いつくしみ深き」という讃美歌になったのです。
作詞者のスクライバンは、アイルランド生まれ。彼は、結婚式の前夜に婚約者が溺死し、さらに移民としてカナダに渡ったあと、婚約した女性もまた、結婚する前に溺死したという特別な悲しみをになった人だったのです。
こうした特別な状況において主イエスからの深い慰めと力を受けたという経験がこの詩の背後にあったと考えられます。それが法学博士で弁護士という異色の作曲家のメロディーとともに、主イエスの愛を歌う讃美歌として広く愛されてきました。
さらには、日本に取り入れられて、日本の唱歌となった讃美歌のうちでは最も親しまれているものとなっているのにも、悲しみをも祝福に変えられる神の力を感じさせるものがあります。