詩文集 「十字架のもと」 第17集 今日はです。更新はです。 |
十字架のもと
彼が刺し貫かれたのは わたしたちの背きのためであり 彼が打ち砕かれたのは わたしたちの咎のためであった。 彼の受けた懲らしめによって わたしたちに平和が与えられ 彼の受けた傷によって、 わたしたちはいやされた。 わたしたちは羊の群れ 道を誤り、 それぞれの方角に向かって行った。 そのわたしたちの罪を すべて主は彼に負わせられた。 イザヤ五十三章五節~六節
いつも いつでも いつまでも
赦されなければ 生きていけない
朝起きて 主に向う 迷いやすい心を しっかりと 主に結びつけて 一日を渡る
流れてくるものがある 風のようであり 力のようでもあり 言葉にできないやさしさ 流れてきて わたしをつつむ そうだ 今 祈られている
太陽光発電の板 並んで 空を見上げて 待っている 陽の光を 神の力を みんなで 空を見上げて 待っている
秋風が吹き 青空が広がっている しかしニュースでは台風が来ているという 天気予報は「大型で強い勢力の台風」と繰り返し 映像は渦巻きの台風をうつしだす 見上げると青空 小鳥が柿の木でさえずる 穏やかな秋の日 しかし台風は来ている 天気予報は告げている
主の再臨も同じこと ニュースでも言わないけれど 着実に近づいている しかし、変わらない日常 まさか、と言いつつ人は笑って過ごす けれどその時は必ず来る
見上げると美しい青空 台風はしかし着実にきている 見渡すと変わらない日常 しかし 主の再臨は 着実に近づいている
どんなときでも 見上げると空があるから よかった
そこは主の御座 空に向って名を呼ぶと こころに来てくださる キリスト
いっせいに 緑が萌え出す 春 どこから命があふれてきたのか
枯れた木が野原があぜ道が 神の時 いっせいに萌え出す
人も同じ 今がどのようであっても 神の時 きっと命があふれ出る そのときを待つ
春を告げる嵐が吹く 窓が揺れるほどの風
神様が大きく御手を振り 息をされる
うなるほどの風に 山も木々も声を上げる
人よ、生きよ、と 神様は 地に息を吹きかける
花の終った大輪のひまわりが 下を向いて 台風の雨に打たれている
「お花がごめんなさいって言っている」 叱られたばかりの三歳のおさなご 花をじっと見て言った
準夜勤務の終った真夜中 家に着き、車から降りる 夜空には一面の星 庭から畑から 虫たちの躍り上がる 賛美が輝く
暗闇の中のまぶしさ 光に包まれる夜 秋の夜風が 虫の合唱を指揮する 午前二時 神を讃える賛美は 天から地から 燃え上がる
夜勤を長い間してきた 体を壊しながらしているとおもった でも 夜勤は医療者についてくる ケガや病気は夜もねむってはくれないのだ 夜勤をしながら 命の源を守ってくださるかたを思う 心臓は二十四時間とまることなく打ち 呼吸は二十四時間、無意識のうちにおこなわれ 酸素は体に送られる 命の源を守られる方は 人の心と体を じっと見つめて支えていてくださる まどろむことなく働かれる主 夜勤のなか 神を思う
仕事を辞めようか 続けようかと迷っている
空を見上げると 青空と雲
わたしの所属部署は天 わたしは主イエスに雇用されている
ただ 御旨を問う朝
キリストからこころが離れると 不満と不安が 雨雲のように広がってくる
キリストがこころに来てくださると 感謝と喜びが 朝焼けのように広がってくる
ハレルヤ!と こころから こころから 主にさけぶとき ふわっとわきあがる このよろこび 何なんだろう 外は秋の夜 そして雨 あしたから十一月 また、寒くなってくるけれど このぬくもり
その人は 消えたいと言った つらくて祈った 祈り続けた 今 生きている その人は 生きようとしている 主よ あなたが両手で支えていてくださる だから 足を踏み出して 生き始めることができたのですね
準夜が終り 家に帰る 車から降りると 一面の星 天から風が吹く
そのまま 主と向かい合いたくて 思わず寝転んだ
天に向う 星に向う 主に向う
心が天に溶けていく
疲れ過ぎたら眠れない 疲れ切って眠れない 眠れないで焦って また眠れない 重い頭を抱えて 弱さを リュックのように背に負いながら 仕事に行く
かたわらに ただ 主の憐れみ
庭に植えたチューリップの球根から 小さな芽が出てきた このチューリップの花が咲くころ わたしは精神科病棟を去る 三月末で辞めるのだ
幻聴に支配される病の苦しさ ここがどこだかわからない病の苦しさ 何もできなくなる病の苦しさ 理解されない心の病の苦しみを負いながら それでも耐えて、耐えて生きていく その患者さんたちの叫びのなかで 言い尽くせない、 大切なことを教えられながら働いてきた
その苦しみが光に変えられますように 意味のない苦しみはないと 神様が直接に心に語り、 安らぎを与えてくださいますように
おはよう、眠れた? さりげない会話で 患者さんの固い顔が笑顔になると わたしの心にぱあっと花が咲いた
心からの祈りを捧げて もうすぐ ここを出て行く
不眠と疲労の頭と体で 今日一日働くために ビタミンでもなく カフェインでもない 主よ ただ あなたの憐れみが必要です
疲れた疲れたと ひとりで騒いでいた そんなときのアシュラムのあつまり 遠い近江八幡に疲れているのに出向かなくても もっと疲れるかも けれど ただひとつ約束されていること それは神様は裏切らないと言うこと だから行った 信じて行った
いま、心は癒され 信仰の泉 湧き始めた アシュラム 祈りと御言葉に聴くひととき 神様は裏切らない
大きなことも小さなことも主イエスに聞けば すぐに、道を教えてくださるというのに どうして、 自分で決めて進んでしまうんだろう キリストが心に住んでくださいますように そう、祈りながら どうして 内にいてくださる主を無視して わたしは勝手に動いてしまうんだろう たいていうまくいかない 主イエスは遠くにいるのではなく わたしの内にいてくださる 間違っているわたしが帰るのを待ってくださっている 主よ あなたに聴かせてください
神様からのレンタルの この 体とこころ 好き勝手に使ってしまって お返しするときに 神様に何て言おう
借りたものは 借りたもののように 貸してくださっている方に 感謝して 大切に 使わないと でもそれがなかなか難しい
三歳児が言う 「ひとりで行く」 手をつなごうとすると、また言う 「だいじょうぶ」 あぶないから、というと、 「あぶなくない」 そして、あぶない道を平気で走っていく 手をつないでいないとあぶないのだ
人も同じ 神に創られ 神に守られ 神が手をつなごうとすると 「ひとりで行く」という。
「だいじょうぶだから」という。 「あぶなくない」という。 そして、滅びに向って行く
いやがる三歳児を叱り むりやり手をつなぐ
深緑の 山の中腹に立つ 電柱は十字架 みどりもえ 主の愛がせまる
主よ あなたに雇われ あなたに指示され あなたに使われる あなたのために働く それこそが 時につらく苦しくても わたしの幸福
主よ 進むべき道を示してください
夜 眠って 朝 目が覚める このことが ただならぬ恵み
ナスとトマトとキュウリが ぶら下がって 聖霊の実
オクラとトウモロコシ 天を指して 祈りの実
緑が燃える 木が歌う 新緑の森 音のない 木々たちの大合唱
暗くて重い夜が明けて ひかりに救われる 深夜勤務のあさ 仕事を終えて 車に乗ると 眉山が見える
冬枯れの木立の間から 新緑の葉が輝く朝
守られて 支えられて きょうの夜勤も終った
精神科病棟の入り口のドアは薄いピンク色 出勤して入り口を入ると長い廊下 ここで、最初に患者さんの誰かに会う 「ご飯食べた?」 さりげない会話が好きだった デイルームでは テレビをみて笑っている人やしんどそうに座っている人 詰め所の中には働く仲間 つらいときも支え合い 励ましてくれた大切な同僚たち 中庭に出ると二階から桜並木が見下ろせる 桜の木を上から見るお花見もいいねと 患者さんと話した 桜は毎年あっという間に葉桜になり その緑も美しかった 今年ここから 桜は見られないだろう
四月になればここを出て行く 一旦退職して 同じ病院で夜勤のない 外来のパート勤務者として再就職することにした
一日、一日が愛おしい 「おはよう」と患者さんに言えることが あと、何回なのだろうか ピンク色のドアをでて家に帰る ありがとう とみんなに思う
八年間過ごした わたしの愛する精神科病棟 大切な患者さんたち 思いも心も病棟に残したままで 自分のロッカーとレターケースの名前をはがす かいでさんはもう、ここにはいないんだよ、と自分に言う みんな元気でね 優しいスタッフたち 中庭の金魚 さよなら さあ 新しいところに遣わされていく きょう ここから出て行く
時は急流のように流れ 人は流されていく けれど 帰るところがある 季節はすぐに移りゆく なつかしい天を見上げる 行き着く先だ 夕焼けがはじまる
ある日 公園の大きなイチョウの木が 色づき始めたな、と思ったら 黄金色に輝き始め あっという間に 美しく散り始めた いつのまにか 木の下に金色の絨毯が敷かれていた 時の流れの中 働きを終えたイチョウの木 枝だけとなり 今 凛として強く美しい
主イエスにむかって歩みたい そんなこころを 阻む力があり わたしはそれにしばしば負ける
まけてしゃがみ込むけれど 十字架のもと
ここでいる限り たちあがり ふたたび 歩いて行くことができる
祈りを持って開けた扉を 悲しみの涙で閉じる
いまはわからない神様のご計画 痛みを飲込んで 胸の奥に沈める
どうしてこんなことになったのかな その悲しみのただ中を すべてのことを良きに変えつつ 静かな川は流れ続ける
逃げない 逃げない 前を向け
戦え 戦え こころの闇と
十字架だけを 抱きしめて
新しい部署にかわり 新しい生活になって 二ヶ月 これでよかったのかな これでよかったんだろう わたしはどこに向っているんだろう いろいろと思い巡らすわたしに 街路樹からいっせいに風が吹きつける おまえのことは すべてわかっているのだと 風の中に言葉がある 神ともにいませば それが わたしの生きる道なのだ
新しい部署で 新しい人間関係の中 新しい仕事を覚えていく けっこう疲れたりするけれど 新人になると言うことは大事なことだ 何歳になっても一年生 謙虚になって仕事を覚え 置かれたところで 扉を開ける
夜が明けて きょうも人はそれぞれの重荷を持ちながら 一日がはじまる
その重荷をわたしに委ね 神の栄光を見なさいと朝日が告げる
陽が沈み 人はどうしようもなく罪を犯しながら一日が終る 十字架の上で キリストは御手を広げて その罪をすべて赦すと夜空の星は告げる
カエルの賛美が聞こえ 虫たちの賛美が聞こえ 鳥の賛美も聞こえる 声あるものは 昼も夜も 神を讃えずにはいられない
朝いのる
主イエスをみあげる
何かがぴたっと合う
そのとき 流れてくる命がある
風力発電の風車はじっとしている ただ風が吹いて 風車が回って風の力を受け取る
太陽光発電の板はじっとしている ただ日の光が注がれて そのエネルギーを受け取る
主よ わたしもじっと待ちます 主の力によって どうか、用いてください
いま 生かされている こうして
それは ただ 主イエスが十字架にかかって 死んで下さったから
いつも いつでも いつまでも 赦されなければ 生きていけない
いつも いつでも いつまでも わたしが立つのは 十字架のもと
小さな詩集が十七集めになりました。 神様の憐れみを感謝します。 この詩集を手にして下さった皆さまの上に 神様の祝福が豊かにありますように。 二〇一五年八月一日 |