海へ―預言的な一つの詩
そのような環境問題の先駆者となったレーチェル・カーソンが、若き日に自ら方向づけられたと言っている短い詩がある。
強い風が巻き起こった
海へ向って、ごうごうと吹いていく
さあ、私も行こう (テニソン)農薬―とくに塩素化合物であるDDT、BHC 、ディルドリンなどが、アメリカでは飛行機や大型機械でおびただしく使用され、小鳥や動物が死にはじめ、さらにいろいろな動物の体内に驚くべき量が濃縮されていくことが、膨大な資料によって明らかにされた。
私はこの書が、1964年に日本語に訳されて数年後、購入して読んだ。私自身が大学で生化学が専攻だったためもあり、化学物質による環境汚染、公害、薬害、生物への影響といったことも、在学中から強い関心があったためであった。
まず驚いたのは、科学に関する書物であり、数多くの資料、研究に基づいた内容であるにもかかわらず、書き方が、文学的であること、挿絵が単なるカットとちがってこの書の内容の重さを示すような描き方であったこと、巻末に添えられた著者が参照した資料の膨大さであった。
そして、当時の化学薬品、農薬の製造メーカーと激しい戦いも生じたというが、数知れない化学者がいたにもかかわらず、このような文学的な女性がこの問題を真正面から取り組み、それを精緻なデータをもとにして主張しているその説得力に強い印象を与えられた。
環境破壊、そこからつながっている人間への悪影響ということより、企業の目先の利益を重視していく、それは当時から現代の原発問題にいたるまで、ずっと続いている。 驚異の感性が開いた道―レーチェル・カーソン
環境問題のパイオニア
私たちの周囲をとりまく環境に関する問題、その重要性は、ますます高まる一方である。
近年の最大の環境問題は、原発の大事故から生じた。その危険性は、ほかのいかなるものにも増して、環境を決定的に破壊するために、その原発を事故のまま放置しておけば、その付近には、何十万年も住むことができなくなるほどである。
外見的には、緑の広大な山野がひろがり、自然に満ちみちた地域であるにもかかわらず、その地域全体が、汚染されてしまう。
また、海の生物たちも放射能に汚染され、生物連鎖によって濃縮されていくことが問題となっている。
このような問題に関して、とくに農薬の大量使用が今から、50数年前にアメリカで発行された一冊の本によって厳しくその害悪が指摘され、環境問題の重要性がクローズアップされた。
その本の題名は、「沈黙の春」Silent Spring。著者は、レーチェル・カーソン。(*)
(*)1907~1964年。アメリカのペンシルバニア州生まれの海洋生物学者、作家。なお、レーチェル Rachel とは、旧約聖書のヤコブの妻ラケル(創世記29章)の英語読みである。
農薬―とくに塩素化合物であるDDT、BHC 、ディルドリンなどが、アメリカでは飛行機や大型機械でおびただしく使用され、小鳥や動物が死にはじめ、さらにいろいろな動物の体内に驚くべき量が濃縮されていくことが、膨大な資料によって明らかにされた。
私はこの書が、1964年に日本語に訳されて数年後、購入して読んだ。私自身が大学で生化学が専攻だったためもあり、化学物質による環境汚染、公害、薬害、生物への影響といったことも、在学中から強い関心があったためであった。
まず驚いたのは、科学に関する書物であり、数多くの資料、研究に基づいた内容であるにもかかわらず、書き方が、文学的であること、挿絵が単なるカットとちがってこの書の内容の重さを示すような描き方であったこと、巻末に添えられた著者が参照した資料の膨大さであった。
そして、当時の化学薬品、農薬の製造メーカーと激しい戦いも生じたというが、数知れない化学者がいたにもかかわらず、このような文学的な女性がこの問題を真正面から取り組み、それを精緻なデータをもとにして主張しているその説得力に強い印象を与えられた。
環境破壊、そこからつながっている人間への悪影響ということより、企業の目先の利益を重視していく、それは当時から現代の原発問題にいたるまで、ずっと続いている。