(277)美は私たちの周囲の至るところにある。それなのに、多くの人はそれに盲目である。地上の驚異を目の前にしながら、なんと多くの者は見ようとしないのか !
人々は熱病にかかったように動き回っているが、どこに向かって進んでいるのかを考えない。
絶望に打ちひしがれた魂のように、刺激のために刺激を求める。
世の中にある自然で穏やかで素朴なものに喜びを感じない。(「パブロ・カザルス 喜びと悲しみ」朝日新聞社刊 268頁)
・私たちの周囲にある樹木や野草たち、それらの一つ一つを静かに観察するときには、その精密な造り、一つ一つの独自の形や色合いなどに驚かされる。それは万能と完全な英知である神の御手がそこにあるからである。
・カザルスは、一八七六年スペインのカタロニア地方生れの音楽家。二〇世紀最大のチェリストと言われている。彼はとくに福音書にあるキリスト降誕の記述には深い意味を示されていた。そのため、後になって平和のための活動を音楽によってしようと決意したときに、つねに携えていたのが、「馬ぶね」(*)というオラトリオであった。かれは、キリストの降誕の聖書の記述には、命と人間への畏敬があり、美と愛に満ちているといい、命の最も崇高な表現だとしている。それはマリアと幼児イエスは新たな命の創造を象徴しているし、羊飼いは一般の労働者を意味し、平和の君(王)が王宮でなく、馬小屋で誕生したことには、深い意味があると彼は語っている。
(*)馬ぶねとは、馬槽とも書く。飼い葉桶ともいう。これは家畜の飼料入れのこと。イエスが生れたときには家畜の飼料入れの中で生れたと聖書に記されている。