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カワラナデシコ 2006.8.18

カワラナデシコ 2006.8.18

カワラナデシコ          徳島県小松島市             2006.8.1 

このカワラナデシコの花のつくりや色調、そのたたずまいは特別です。夏の山を歩いていて、最も美しい花の一つはこのカワラナデシコです。ピンクの花びらの中程から先が装飾のためのように、切れ込み、しかもその先端は上に少しカールしているようになっています。
 
もう三五年ほども昔、徳島に帰ってきて時間を見付けてはあちこちの山々を歩いていたとき、標高600メートルほどのほとんど人も歩いていない山道にて、予期してはいなかったこの花を見出したときの印象が今もなお残っています。緑一色、そして夏ともなれば四国の山では草木は山道の両側に繁茂してきます。そうしたなかで、すらりと伸びた茎の上に風に揺られながらしずかに咲いていたのです。

の花を初めて見出したのは、一般的なルートでなく、山をよく歩いている人でないとたどれないようなコースであり、しかも夏の草深い山は暑くて歩く人はごく少なく、それだけに抜き取られたりすることもなく、自然そのままのすがたを保っていたわけです。これが日本では古代から野生で見られるので、ヤマトナデシコと言われます。中国からのナデシコをカラナデシコ(または石竹)、アメリカからのは、アメリカナデシコと言われます。ナデシコの仲間はいろいろありますが、やはり山の自然のなかで咲いているこのカワラナデシコが最も美しいものです。 日本女性のことを、ヤマトナデシコと言ったりするのは、この花のようであって欲しいという願いが込められています。

 標準和名のカワラナデシコという名は、河原にも見られるということからですが、私は河原にて見たことはなく、ある地域の大きい川の土手に見られるくらいです。山地でも見かけることは次第に稀になってきています。
 
なお、この花の学名は、Dianthus  superbus …(ディアントゥス   スペルブス)ですが、学名の最初の部分である属名には、(dianthus) という言葉が含まれています。これは、ギリシャ語の ディーオス(dios)と アントス(anthos)という言葉に由来するもので、dios とは、「神のごとき(divine)、卓越した(excellent)、高貴な(noble)」といった意味を持つ言葉です。また、アントスとは、ギリシャ語の「花」の意ですから、ディアントスとは、「神のごとき花、高貴な花」という意味なのです。 さらに、学名には、superbus という言葉を含んでいます。この語は、日本語にもなっている、スーパーマンとか、スーパースターといった言葉でわかるように、「卓越した」という意味を持つのです。  こうした学名に含まれる意味からしても、この学名を付けた植物学者も、この花をとくに神聖な花、卓越した花として受けとっていたのが分かりますし、ヨーロッパでは実際に重んじられてきたのです。

 この花は、神の国の美と清さとを指し示しているようです。(写真、文ともにT.YOSHIMURA