文字サイズ大きくするボタン文字サイズ中「標準に戻す」ボタン      

休憩室 1999/12

紅葉を生み出すもの

 晩秋から十二月にかけて、平地では木々にさまざまの紅葉が見られます。紅葉という言葉は紅の葉と書きますが、黄色や褐色になるのも含めていうこともあります。
 カエデやハゼノキのなかま、そして高い山に見られるナナカマドなどがとくに鮮やかな赤い色になります。カエデのなかまは、数多くあり、私自身が各地の山で見たことのあるものでも、イロハカエデ、オオモミジ、コハウチワカエデ、コミネカエデ、オオイタヤメイゲツ、ウリハダカエデなどが思い出されます。これらのうち、一般によく知られているのは、イロハカエデであり、これは単にカエデとかモミジ、あるいは、京都の高雄地方にこの名所があるので、タカオカエデとも言われます。カエデひとつとっても、実に多くの種類があり、それらは秋になるとたいてい美しく色づきます。
 カエデなどが美しい赤色になるのに対して、クヌギ、ケヤキ、コナラ、ブナなどは褐色になります。これらのうちでも、ケヤキは一部赤くなります。
 それから、黄色になる木々としては、イチョウ、ポプラはよく知られていますが、カツラ(桂)も美しい黄色となり、丸い独特の葉の形とあいまって、晩秋にその落ち葉を谷間の山道で見かけると忘れられないものです。カツラは、京都の桂離宮とか、人名の桂小五郎などといった名前でだれでも知っているのですが、カツラの木そのものを見たことのある人はごく少ないようです。
 私自身も、八百メートルほどの山の渓谷沿いと、剣山(徳島県の最高峰で標高一九五五メートル)の七合目付近のやはり渓谷沿いで見たもの、それから徳島と香川の県境の山の谷間の三つの場所だけです。
 このうち紅葉は、秋になると葉の付け根に特殊な細胞ができて、葉で作られた糖分が移動するのが困難となり、葉の細胞にたまる傾向が生じ、それが赤い色素であるアントシアンを作りだすのを促進するからだと考えられています。
 また黄色になるのは、秋になって葉が老化すると、葉の緑色の原因になっている葉緑素がこわれ、もともと葉にあった黄色い色素(カロチノイド)の色が現れてくるからです。また、褐色になるのは、さらにべつの褐色色素がつくられるからだと言われています。
 このように、葉としての役割を終えて、散って落ちようとする葉の中にも複雑な化学反応が生じ、私たち人間にとってさまざまの感動を呼ぶ美しい色になるのは、驚くべきことです。
 寒さという本来化学反応を鈍らせることが、美しい色を作り出すのに役だっていること、そして厳しい寒さがより美しい紅葉を生み出すということも、あらゆることを用いる神の御業を感じさせてくれます。
 これは、神に結びついた人間は、病気になっても、老齢で命を終えようとするときでも、不思議な輝きを周囲に感じさせ、元気で働いていたときとは違った何かを生み出すことがあるのと似ているように思われます。
区切り線
音声ページトップへ戻る前へ戻るボタントップページへ戻るボタン次のページへ進むボタン。