リンドウ 山口県秋吉台高原 2013.11.11 撮影 | |
秋吉台の高原に咲くリンドウ、これは以前にも取り上げたが、再度とりあげたのは、やはり、秋の野山に咲く花―数多くの花々があるなかで、このリンドウはことに私の心に半世紀を超えて深く刻まれているからである。 リンドウに添えたのは、この花の咲いていた秋吉台の高原。ここは鍾乳洞がとりわけ有名であるが、この高原とそこに見られる花に関しては大多数の人は知らないのではないかと思われるので、リンドウがどのようなところで見られたかを示すためにここに入れた。 (前回と似ているが、高原も花も別のものの写真) いまから50年余り昔、京都の鞍馬山からはじめて、1週間近くもかけて京都北山から丹波高原という複雑な地形のほとんど人の行かない山を登り、谷を超えて福井県まで単独で歩き続けたときのことは忘れられない印象となっている。もちろん山小屋などなく、すべてテントでの野営だった。 その長い山行では雨風の激しいとき、道が分からなくなったとき、イノシシが現れておびえたこと…等々、五万分の一の地図と磁石だけを頼りに、しばしば道なき道―すでに廃道と地図で記されているところをもたどって―その地域の最高峰の標高はせいぜい千メートル程度であったが、その複雑な地形、清い谷川、人のほとんど訪れない奥深い山域はその後各地の山々にのぼったなかでもとくに心に残るものであった。 何日も歩き続けて、ようやく日本海に流れる由良川の源流地帯にたどりつき、そこで見いだしたのが、リンドウだった。 途中の困難さのゆえに、いっそうこの花の青い色とその姿が深く心に残り、いまなおそのときの状況がありありと思いだされる。 そのころは私はまだキリスト教信仰とは無縁だった。しかし、由良川源流の静かな流れのそばで咲いていたこの青紫の花は、神からの賜物だった。当時はどのルートをとっても長大な山や谷を歩いて超えていく必要があるために、この地域にはほとんど人は訪れない。じっさい、1日中早朝から夕方まで歩き、登りつづけたのに、一人も人間には出会わなかった日が何日もあった地域である。そのような隔絶したなかで静かに咲いていた。 耳をすますとそこから天来の音楽が流れてくるような―そんな雰囲気だった。 (写真・文ともにT.YOSHIMURA) |
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