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リンドウ (リンドウ科)   伊吹山

(標高1377m、滋賀県と岐阜県の県境にある)2009.9.21

リンドウ (リンドウ科)   伊吹山(標高1377m、滋賀県と岐阜県の県境にある)2009.9.21

この花は、秋の代表的な花であり、多くの人たちには、花屋さんで売っているリンドウを思い出すでありましょう。しかし、あの花屋のリンドウはエゾリンドウの栽培種で、花が階段状になってつきますが、この「リンドウ」は、一部は下部にもつきますが、多くはこのように茎の上部にまとまって咲きます。 その色合いが、花びらの元の部分はややエンジ色で、太陽の光を受けて開きます。この写真は、2009年の秋に、伊吹山で咲いていたもので、野生のリンドウに接するのは何年ぶりかのことでした。

 この青紫色の美しさは、多くの人の心を引きつけるものがあります。

 かつて私は大学時代に、京都の北山をよく歩いていて、秋のころには、時折このリンドウを見付けたときは、一人の山歩きを歓迎してくれているような気持ちになり、うれしかったのを思い出します。

 テントや食料、燃料なども携行して、京都市北部の鞍馬山から登りはじめて、北山、丹波高原の山々を越え、谷をわたって何日も歩いて日本海を望む峠を越え、福井県まで出たとき、途中の由良川の源流地帯で出会ったリンドウの美しさは今もわすれられないものがあります。天の国の青さ、というようなものを感じたのです。


 宮沢 賢治も、このリンドウの青紫色に惹かれた一人だったと思われます。彼の作品には次のような描写があります。


 「あゝ、りんどうの花が咲いてゐる。もうすっかり秋だねえ。」

カムパネルラが、窓の外を指さして云ひました。
線路のへりになったみじかい芝草の中に、月長石ででも刻まれたやうな、すばらしい紫のりんどうの花が咲いてゐました。
ぼく、飛び下りて、あいつをとって、また飛び乗ってみせようか。」ジョバンニは胸を躍らせて云ひました。
「もうだめだ。あんなにうしろへ行ってしまったから。」
 カムパネルラが、さう云ってしまふかしまはないうち、次のりんどうの花が、いっぱいに光って過ぎて行きました。
 と思ったら、もう次から次から、たくさんのきいろな底をもったりんどうの花のコップが、湧くやうに、雨のやうに、眼の前を通り、三角標の列は、けむるやうに燃えるやうに、いよいよ光って立ったのです。(「銀河鉄道の夜」より)

 私の心のカメラに映ったリンドウ、それは40年以上の歳月を経てもなお消えることがありません。この花自体は秋だけしか見られず、また実際の野生状態で見る機会はなかなか普通の人には与えられません。しかし、この花にたたえられた深い青紫色は、頭上にひろがる青い空、また海の青い色などにも通じるものがあり、それは私たちを神の国の深みへと招こうとするメッセージをたたえているのです。(文、写真とも.YOSHIMURA

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