詩の世界から 2008/6
五月山 卯の花月夜 ほととぎす 聞けども飽かず また鳴かぬかも(「万葉集」一九五三)
・ 五月の山の景色はよいものだ。卯の花(ウツギ)が咲いている月の晩に、ホトトギスが鳴くのをいくら聞いても飽くことがない。さらに幾度もくりかえして、鳴いてくれたらよいが。(「折口信夫全集」第四巻五〇七頁の訳による)
五月から六月にかけて山で目立つのは各種のウツギのなかまの白い花である。緑一色となっていく初夏でその純白の花はとくに心に入ってくる。それとともに、この頃に鳴くホトトギスの声は実に印象的でしばし聞き入ってしまう。何かを訴えるように、叫ぶようにして鳴くのはこの鳥が第一であろう。それゆえに古来ここに引用した万葉集や古今、新古今などでも多くの歌がある。
ホトトギスは多くの人々の関心を強くひいたために、あてられる漢字も 時鳥、不如帰、杜鵑など八種類もあり、俳人で有名な正岡子規の名前「子規」もまたホトトギスを意味するし、ほかの名前として、うづきどり・夕影鳥・夜直鳥(よただどり)など七種類もの名が広辞苑にもあげられている。こんなに多くの名前を持った鳥、それほど注目されてきたことを表している。私もわが家のそばの谷間でのウツギの花の純白に心あらわれ、また、その山から時折このホトトギスの鳴き声が聞こえると思わず聞き入ってしまう。神がこの鳥の特徴ある声を用いてなにかを語りかけているように感じるからである。
あわれみのような
伊丹 悦子
ひとばんじゅう
発光する美しい声でうたって
わたしたちをはげまし
なぐさめてくださる虫たちよ
かがやくような
主のおこころ
空には星
こぼれるようにまたたいて
どこから来るのか
私たちが地球と呼ぶこの星の
天と地の間には
神の憐れみのような
安らかで
しずかな風も吹きとおる (「泉への道」36頁)
・六月、ホタルの季節になるとわが家の近くでや闇に輝くホタルが現れる。そして神のお心の一端を点滅する光で示してくれる。今月号に書いた、神の憐れみに関する詩でもありここに引用した。
心の病
貝出 久美子
心の病は
レントゲンには写らない
CTを撮っても
MRIにも
心の中は写せない
ただ
神様のひとみには
はっきりと写る
その心の苦しみと痛み
(「ここに光が」七頁)
・精神科の看護師の仕事の中から生まれた詩。
どんな機械もコンピュータも心の本当の病は写せない。その度合いを測定もできない。しかし、神はたしかにすべてをそのお心に写し、いまはいかに事態は闇のようであっても、時至れば愛をもって最終的に導かれると信じていく、それは神が万能であり、愛であるから。この信仰によって私たちは自分自身にある罪やこの世にあるさまざまの悪や悲しみにも立ち向かいたいと願う。