リストボタン宇宙基本法の問題点  2008/6

四〇年ほども続いてきた宇宙利用を平和目的に限るとしてきたかつての国会決議を驚くほどの短期間(わずか四時間)という実質審議で根本的な変更をすることになった。
それは長く宇宙の利用は平和目的に限るという内容であったが、今回の改訂は、軍事目的に利用する道を開くものとなった。
そのため、自衛隊が、軍事的な情報を集めるための高性能な衛星や、ミサイルを監視したり、場合によっては何らかの攻撃を加えたりする方向へと進んでいく可能性が高くなった。
この宇宙基本法の成立を推進するために、二年ほど前に、日本経済団体連合会が、二〇〇六年六月に、「わが国の宇宙開発利用推進に向けた提言」を公にしていた。そこでは、明確に、宇宙産業を活性化するということが第一に言われている。
関係省庁・機関が一丸となって、宇宙産業の活性化・国際競争力の向上、国民の安全・安心の確保を実現する抜本的な体制の構築を目指す「宇宙基本法」の一刻も早い成立を求める。」
このような経済界の要求と政治家、防衛関係の人間たちの軍事力拡張の意図が一致して、いとも簡単に変えられたのである。
宇宙というのは日常生活との関わりが分かりにくいため、国民からもはっきりとした強い反対の考えは生じにくい。そうした点をたくみに利用して、今回の宇宙基本法を短時間で決めてしまったところがある。
このようにして、自国を守るため、という目的であるはずの自衛隊を、宇宙からの攻撃もできる体制へと変質させようとしている。 これは憲法の平和主義に反することである。
この宇宙基本法の理念には、「宇宙空間の平和的目的の利用に関する規定に則り、国際の平和及び安全並びに我が国の総合的な安全保障に寄与するものでなければならない」とか、「宇宙開発を通じて、国際の平和及び安全並びに我が国の安全保障に資するための措置を講ずるものとする」などと書かれているので、一見すると平和利用の精神が保たれているなどと受け取られるかもしれないが、軍事と直結する安全保障のためという目的が明確に書かれている。
いつの時代でも、軍備の拡張や戦争にかかわる道は平和という名のもとに行われる。太平洋戦争も、天皇の開戦のときの言葉は「東亜永遠の平和を確立し、以て帝国の光栄を保全せむことを期す。」という言葉で結ばれていたのである。
このような表面的な言葉によってその危険性を見失うことがあってはならない。
今回の基本法の制定は、平和憲法を別の方向からなし崩しにしていこうという流れを感じさせるものである。
これとは別に、国際宇宙ステーションに設置する「きぼう」という実験棟のニュースが大きく報道された。しかし、これも船内の無重力のなかでの動きなど、子供に見せて喜ばせるような内容をとくに強調しているばかりで、テレビのニュースなどはその問題点などには、全く触れていない。
この宇宙ステーションというのは、すでに二〇年以上も前に、アメリカの呼びかけで始まり、今までに五五〇〇億円もの巨費が使われてきた。 さらに今後は年間四〇〇億円もの維持費がかかるという。これは毎日一億円以上が使われていく計算になる。
このような巨費を投じて何をするのかというと、無重力状態で実験するというが、研究者たちの間には、わざわざ多額の費用をかけて宇宙で実験する必要もないという声も出されているというし、以前に予定していた実験のなかには、地上や飛行機で可能になったのもある。そして宇宙飛行士の向井千秋氏がある研究者を訪問したおり、彼女が「何とかして一つでも成果を出したい」と言っていたという。それを聞いた研究者は、「わざわざ宇宙の 〈きぼう〉で実験しても成果の出せるテーマはほとんどないのではないか」と言った。「きぼう」は九〇年代はじめの設計なので、飛行士が持ち込むノートパソコンのほうが、〈きぼう〉のどのコンピュータより高性能だという。(毎日新聞三月一一日による)
このような問題点以外にもいろいろな問題をもっていながら、あたかも希望ばかりのようなニュースの報道ぶりである。
こうした報道だけに接していると、宇宙開発に関わる軍事との関連など、一般の人々にとっては気付かないままになっていく。
 福祉や教育、医療といった方面には容赦なく金を削っているにもかかわらず、こうした軍事と深い関わりのある方面には惜しげなく巨費を使おうとする。
宇宙での実験といった目的にしても、維持費だけでも、毎日一億円以上も使うなど、ほかの数しれぬ種類ある研究分野に比べると、突出していて途方もないような巨額なのである。なぜ、基礎研究といって、ごく限られた分野の研究にそのような多額の金が使われるのかということが当然疑問になってくる。
宇宙というと、何かロマンチックなイメージを持ちやすい。さらに宇宙ステーションで無重力遊泳とかドッキングさせる、そこで特殊な実験をするなどといった何か明るいイメージに背後に隠された、軍事的な問題を私たちは忘れてはならないと思う。


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