原発事故が最悪の状態になっていたら
原発の大事故以来、原発を止めて自然エネルギー、再生エネルギーへと強力に移行すべきだという意見が出されてきたが、それと逆に、従来通り、原発を何とか継続していこうとする人たちがいろいろと画策している。
これは一つには、国民も喉元すぎれば熱さを忘れるということで、とくに直接に被害を受けていない地域は、原発をそのまま何となく継続していくという考えに依存する傾向が強くなっていきつつある。
しかし、原子力発電ということがいかに危険な事態となりうるか、今回の事故よりはるかに深刻な状況になる可能性が高かったということが、最近報道されている。
…3月25日に、菅首相の指示で、近藤駿介氏(内閣府原子力委員会の委員長)が、事故の最悪の場合にはどのような事態が起こるかを、報告していた。
それによれば、1〜3号炉でさらなる水素爆発や核燃料プールの燃料溶融が起きた場合、原発から、半径170キロ圏内が旧ソ連チェルノブイリ原発事故の強制移住地域の汚染レベルになるとされていた。
これはA4で20頁ほどになる詳しいもの。第一原発は、3月11日の地震や津波によって、すべての電源を失い、1、3、4号機で水素爆発が生じ、2号機も炉心溶融で大量の放射性物質が放出されていた。冷却作業は外部の消防ポンプ車など外部からの注水にたよっていて不安定な状態であった。
とくに懸念されていたのは、1535本の燃料を保管する4号機の使用済み核燃料プールだった。
最悪の場合は、1〜3号機のいずれかでさらなる水素爆発が起きて、原発内の放射線量が上昇。余震も続いて、冷却作業が長期間できなくなり、4号機プールの核燃料がすべて溶解したと仮定した。
その場合には、宇都宮市、茨城県つくば市など原発から半径170キロ圏内で、土壌中のセシウムが1平方メートルあたり、148万ベクレル以上という、チェルノブイリ事故の強制移住基準に達する。
東京都、埼玉県のほぼ全域、横浜市まで含めた250キロの範囲が避難が必要なほどに汚染されると推定した。
(毎日新聞12月25日)
4号炉に、原発3基分に相当する核燃料があり、それが溶融して崩れ落ちた場合、一挙に、三つの原子炉のメルトダウンが合わさったような状態になる。その場合には、それらの燃料は圧力容器や格納容器に入っていないのであるから、高濃度の放射能が垂れ流し、空気中へも拡散され続ける状態となり、手がつけられなくなってしまう。
それだけではない。そのような強力な放射能がある状態となると、隣接している1〜3号炉にも近づけなくなり、それらもさらに燃料が高温となり、水素爆発、あるいは水蒸気爆発が起こる可能性がたかまる。もしそうした爆発が起これば
そこからの莫大な放射能が関東全域を覆うことになって、3500万の膨大な人間が避難するということになれば、それは日本全体の大混乱となってしまうだろう。
そのような恐るべき可能性をはらんでいた4号炉は、電源がなくなって、核燃料を入れてあったプールの水が沸騰し、空だきとなる直前に、4号機内で起きた水素爆発の衝撃で、核燃料プールの横の別のプールの水が流れ込み、そのために、空だきを防ぐことができたという。
これは全くの偶然的出来事のゆえであった。これがなかったら、日本の運命が大きく変わっていたとも言える重大なことなのである。
こうした危険性を内蔵しているのが、原子力発電なのである。ほかのいかなる産業や事故においても、このような膨大な規模での破壊や、数千万人の住む地域が住めなくなるなどということはあり得ない。
このような、恐るべき事態をはらむ原発を止めることなく、さらに巨額の費用を投入して安全にすればいいのだ、などという人がいる。いかに人間が安全に考えようとも、定期的な点検と補修のときに、じっさいに高い放射線を浴びつつ作業を行うのは、下請け工事を請け負っている会社の作業員である。
人間が完全に物事をすることなどあり得ない。交通事故一つ考えてもわかる。だれも、交通事故を起こして怪我しようとは思わないが、それでも人間の弱さゆえに、どうしても運転ミスが生じて事故は起こる。
どんな状況でもそれは変わらない。今までにも繰り返しあったように、じっさいは何らかの異常や事故があっても、それを軽微なものとしたり、隠したりすることが当然考えられる。巨額の費用をつぎ込むほど、何らかの事故になるとまたその修復に恐ろしく費用がかかる。そして、当事者たちは、重い責任を取らされる。
このように、重大な事故が起こると、大変な問題になることゆえに、できるだけなかったことにしようとする。そのために、不正が行われ、職員が真実を話さなくなる。こうしたことが重なっていくと、次第に積み重なり、事故があっても正しく報告もせず、推進の意見ばかりをいうようになる。
やらせメール事件を見てもわかるが、人間はどんなに机上でよいプランを作っても、金や権力に弱く、名誉心の強い人間であるから、自分たちの欲望をとげるためには、どのような裏道をも考えだしてしまうものであり、決して予想通りには行動しないのである。
これがまた新たな事故の温床となる。
福井県の高速増殖炉「もんじゅ」は、莫大な経費をかけて造ったが、もう15年ほども故障で運転できない。しかもその間、毎日なんと、5500万円ほども巨額の費用が、維持するだけに費やされてきた。そうしたなか、ようやく運転を再開したが、まもなく2010年8月に、炉内中継装置という33トンもの機器を落下させた。そのため、10ヶ月ほどもかけて、ようやく落とした機器を引き上げたが、そ引き上げ作業のためだけに、何と17億5000万円という巨額の費用がかかっている。
このようなことのために、引き上げ工事のさなかに、担当の要職にある人間が、自らの命を断ってしまったということがあった。
このように、本質的に危険なものを、巨額を投入して安全なものにしようとしても、当然のことながら次々と難問が生じてくるのである。 このようなことから考えても、これほど危険なものをより安全になどという学者や電力会社、あるいは政治家の言い分を信じることはできない。そうした主張こそが、現在の計り知れない悲劇を生み出したのである。
多くの被災で苦しむ人たちを救うためにも、さらにこれからの日本の前途を考えるなら、直ちに、こうした原発の推進を中止すべきなのである。