2012年9月 |
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ことば (342)独創性 …独創性ということがよくいわれるが、それは何を意味しているのだろう! われわれが、生まれ落ちるとまもなく、世界はわれわれに影響をあたえはじめ、死ぬまでそれがつづくのだ。 いつだってそうだよ。一体われわれ自身のものとよぶことができるようなものが、エネルギーと力と意欲のほかにあるだろうか! 私が偉大な先輩や同時代人に恩恵を蒙(こうむ)っているものの名をひとつひとつあげれば、後に残るものはいくらもあるまい。(「エッカーマンとの対話」岩波文庫より。ゲーテの言葉(*)) (*)ゲーテ(1749~1832年)は、ドイツの代表的詩人、作家として有名であるが、自然科学の研究も手がけ、政治家、法律家でもあった。 ・ゲーテは天才として知られているが、その彼であっても、その思想やさまざまの作品の内容は、先人の大きな恩恵によっているのだという。より聖書的に言えば、私たちが何かよき働きや考えを持ったり、それを著した本や研究をだしたとしても、それは彼自身が生み出したものでなく、過去の無数の人たちの持っていたものを取り入れたゆえなのである。 さらにそのことをさかのぼると、そうしたよきものを与えたのは人間でなく、神であり、キリストであるというところに達する。歴史上のあらゆるよき大きな働きはみなその源をたどるとキリストに、神に到達する。私たちの独創性を生み出す源は神であり、主イエスが聖霊がすべてを教えるといった言葉が思いだされてくる。 他人の物真似でなく、真にその人独自の歩みをしようと欲するならば、神とキリストに結びつくことが不可欠となる。 神と結びついた自然の姿―野草や樹木、花々の姿、色彩、そして山河や空のさまざまの姿―それはいかに独創的であることだろう! (343)より高き力 私はより高い力が私を守ってくださらなければ、どの人間の胸にもいかに恐るべき考えが生まれ育つかもしれないということをはっきりと知っています。 (「美しき魂の告白」の最後の部分―「ウィルヘルムマイスターの修業時代 第6巻」筑摩書房版 世界文学体系「ゲーテ」 223頁) Ich so deutlich erkannt habe,welche Ungeheuer in jedem menschlichen Busen,wenn eine höhere Kraft uns nicht bewahrt,sich erzeugen und nähren können. ・この文を含む「ウィルヘルムマイスターの修業時代・遍歴時代」という作品は、日本語訳では、三段組みの小さな文字で大型本 六百頁に及ぶ大作であり、そのなかにさまざまの英知に富む言葉が含まれている。 ここにあげた人間の本質的な弱さを知っているゆえに、「自分の力、能力などを誇るという気持には決してならない」―と述べている。これは、人間の罪そのものを深く知った人の言葉である。 私たちもみな、「より高き力」を待ち望む。それがなければ人間は救われない存在であるから。 使徒パウロが、「あなた方は、以前は自分の罪のために死んでいたのだ」(エペソ書2の1)と述べているのもこうした人間の本質を知っていたからである。 |