リストボタン低い線量の放射線を受けても害はないのか

放射線を大量に受けると即死、それほどでなくとも多くの放射線を浴びると、それによって骨髄にある造血細胞が異常をきたし、白血球と血小板が作られなくなる。そのために出血し、免疫力も弱くなって、1〜2ヶ月で死に至る。また、小腸の細胞が破壊されると養分は吸収されなくなり、下痢や細菌感染といった状況となってひどくなると死に至る。
このようになるほどの大量の被曝は、今回の福島原発では生じていないと考えられている。
しかし、もっと低い放射線量がどのように人間に影響するのか、にいたっては、大きな見解の差がある。
低線量放射線の影響については、先日のNHKテレビでも触れていた。
「生涯に200ミリシーベルト受けると、ガンのリスクが 1%上昇、100ミリシーベルト受けると、0.5%、ガンになるリスクが上昇する。しかし、100ミリシーベルト以下は、統計上明らかでない、影響は明らかでないとして、専門家は安全としている。」
と説明していた。
しかし、女性のキャスターのこの「専門家は安全」と言っているというが、そのように言っていない専門家が多数いるにもかかわらず、そのような学者、国際機関があるのにまったくそれには触れず、安全だという専門家たちの一方的な発言を流していたのである。
 これは当然、そのキャスターの背後にいる番組作成の担当者、そしてその上司たちの意図が反映された報道の仕方だということになる。
なぜ、このように一方的な主張だけを放送するのか。それは、低線量放射線を受けても安全なら、そこに住んでいる人たちもそのまま避難勧告とか補償などせずにすむ。福島県内外のホットスポットといわれるかなり線量の高いところでも、年間100ミリシーベルト以下では何ら問題ない、ということになると、そのまま放置しておいてよいということになる。
だから特別な対策も避難もいらない、原発保障もそのような被曝量の人には必要がない…
これは、東京電力や政府、そして原発を推進したい人たちにはとても好都合な結論なのである。
要するに、政治的あるいは経済的な要因を第一とするために、人間の本当の安全を後回しにするという発想が背後に感じられるのである。
 以前に、NHKテレビでやはり原発特集番組があったが、そこでもそのような原発推進の意図を感じさせる番組作成があった。例えば、原発にかんする海外の状況ということで、出てきたのは、その前に国民投票で95%という圧倒的な賛成で、原発をやめることになったイタリアのことには全く触れようとせず、脱原発としてはドイツだけを取り上げ、原発推進のフランス、アメリカの二カ国を詳しく報道するという内容であった。
 イタリアのように原発反対ということを日本の国民の多数が言い出さないようにという意図、そして安全な原発にして推進するというフランスやアメリカの状況を映像で流すことで、一般の多くの人には、原発は推進するのが世界の大勢なのだという意識を知らず知らずのうちに持たせるという背後の意図を感じさせるものであった。
 今回の、NHKの低線量被曝に関する報道においても、次にあげる国際的な専門家の主張を一部でも見れば、このようなNHKの番組構成の仕方には、はっきりとした意図を感じる。
100ミリシーベルト以下の被曝でも安全とは言えないという学者・専門家の団体などいろいろある。例えば、今仲哲二・京都大学原子炉実験所助教は、次のように述べている。

「よく基準値異常なら危険で、以下なら大丈夫、と考える人がいる。年間1ミリシーベルトとか、20ミリシーベルトとか、さまざまの基準値が議論されている。
しかし、こうした数値は、科学的根拠に基づいて直接導かれたものではない。
ガンになるリスクのある放射線にどの数値まで我慢するかは、社会的条件との兼ね合いである。」 (6月29日付の朝日新聞)
これは新聞記事なのでごく簡単に書いてあるが、これだけみても放射線にかかわってきた学者であってもまったく異なる見解があるのがすぐにわかる。
発ガンが増えるかどうかのしきい値があるかどうか、ということが以前から問題になっている。100ミリシーベルト以下だと、発ガンのリスクは増加しないというのが、しきい値ありの主張で、そうでなく、わずかな線量を受けてもリスクは増加するという主張が、しきい値なしという主張である。
右に引用した、今仲哲二はしきい値なしの立場である。
放射線の専門家の一人、近藤誠氏(慶応大学病院 放射線科医師)は、この100ミリシーベルト以下の放射線の影響に関して次のように言っている。
「年間100ミリシーベルト以下の低線量被曝で、発ガンが増えるかどうかには、しきい値の有無が論点になっています。…意見が分かれたのは、低線量被曝に関するデータがなかったからです。しかし、データがないから安心、とは一概に言えません。
ICRP(国際放射線防護委員会)は、20年以上前から、100ミリシーベルト以下なら安全というしきい値なしの立場に立っている。
近年、低線量被曝のデータが充実してきました。原爆被爆者調査を続けたところ、10〜50 ミリシーベルト領域でも、直線比例関係があることが示唆されたのです。」
また、15か国の原発作業従事者40万人の調査で、平均被爆量が 20ミリシーベルトしかないのに、発がん死亡の増加が認められました。
結局、現在では、しきい値なしは、ほぼ事実と考えられます。
ですが、政府は、100ミリシーベルト以下はただちに健康に影響を及ぼす線量ではない、と主張しています。―将来的にはガン死亡がありうる―、という意味ではないでしょうか。」
そして、次のような強い表現で、低線量放射線の害を語っている。
「テレビで、100ミリシーベルト以下は問題ないといまだに言っている科学者は、嘘をついていると言わざるを得ない。100ミリシーベルト以下でも影響はある。100ミリシーベルト以下の低線量で人体に影響を残すのは事実で、アメリカやヨーロッパでは常識になっている。
だから、100ミリシーベルト以下では、何も放射線の影響がない、などといっている人は、おっちょこちょいか、詐欺師ってことになる。」
放射線の専門家、といってもこれほど大きな主張の隔たりがある。
生物学者にも、やはり次のように低線量放射線の危険性をはっきりという人もいる。
「放射線はDNAを確率的に損傷させていくので、被曝量とガンの発症率はほぼパラレルになると思われる。被曝量は、少なければ少ないほど安全だ。
20ミリシーベルト以内なら安全だなどというのは真っ赤なウソだ。日本政府を信用してはいけない。」(池田清彦・早稲田大学教授。「週刊朝日」4月7日号)
今仲氏と同じ、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章氏もその著書で次のように述べている。

…たとえ被爆量がそんなに多くなかったとしても、後々に被害が出ることがあります。5年経ってから、20年経ってから、あるいは50年経ってから被曝が原因でガンになってしまう人たちが出てくることを、広島、長崎の原爆者が教えてくれました。…(被爆量が少ないから)全く影響がないなんてことは絶対に言えません。
「人体に影響のない程度の被曝」などというのは完全なウソで、どんなにわずかな被曝でも、放射線がDNAを含めた分子結合を切断・破壊するという現象は起こるのです。
学問上、これは当然のことなのです。これまで、放射線の影響を調べてきた国際的な研究グループはみんなこの事実を認めています。アメリカ科学アカデミーのなかに放射線の影響を検討する委員会「BEIR」 があって、それが2005年に報告をだしました。その結論部分にこう書いてあります。
「利用できる生物学的、生物物理学的データを総合的に検討した結果、委員会は以下の結論に達した。
 被曝のリスクは低線量にいたるまで直線的に存在しつづけ、しきい値はない。最小限の被曝であっても、人類に対して危険を及ぼす可能性がある。」(「原発のウソ」小出裕章著69〜70頁)
 このような低線量の被曝なら安全どころか、内部被曝の場合、かえって意外にも危険性が増大する、という研究が知られている。
 これは、ペトカウ効果として知られている。1972年、カナダ原子力委員会の研究所で、液体のなかに置かれた細胞は、高い線量の放射線を繰り返し当てたより、低線量放射線を長時間、放射することによって容易に細胞膜を破壊することができる、ことを実験で確かめたというものである。
 このことをさらにすすめて、ピッツバーグ大学放射線科のスターングラス教授は、次のような結論を得た。
・放射線の線量が非常に低い低線量では、生物への影響はかえって大きくなる。
・低線量被曝の健康への危険性はICRPが主張する値より大きく、乳児死亡の倍になる線量は4.5ミリシーベルトである。…
 この研究に対しても反論がいろいろ寄せられた。モデルとした細胞膜に起こった放射線損傷が生体の細胞膜で起こるかどうかは明らかでない…等。
 こうした研究に対して、広島での被曝後 60年にわたって内部被曝の研究を続けてきた医師は次のように述べている。
「広島、長崎で爆発後市内に入った多数の内部被曝者を長年継続して診てきた私は、彼らの経験したいわゆる急性症状と数カ月から数年、10数年後に彼らに発症したぶらぶら病症候群は、内部被曝による低線量放射線による影響と診るのが最もよく説明できるので、私はペトカウ効果と、それをもとにしたスターングラスをはじめとする多くの学者、研究者の低線量放射線有害説」を支持してやまない。(「内部被曝の脅威」肥田舜太郎、鎌中ひとみ共著 筑摩書房刊 90〜99頁より)
 さらに、次のような研究もある。
 放射線損傷を受けた細胞が、そうした放射線を受けていない近くの細胞にシグナルを発して、近くの細胞をガン化させるというものである。これは、α線やX線について多くの研究がある。この作用は、まだ、低線量のX線、γ線によるリスクとの関連は確立されていない。
 また、少しの放射線を受けるのは、リスクがないか、むしろ、有益であるとする研究もある。これがホルミシス効果といわれるものである。いくつかの動物実験では、低および、中線量の放射線が寿命を延ばすことができるという潜在的なホルミシス効果が示唆されているが、相反する実験結果も得られており、現在のところよくわかっていない。
 また、すでに触れた、アメリカ科学アカデミーは、低線量放射線も有害であるとする主張は、「じっさいの疫学研究結果によって裏付けられた科学的事実である」としている。
(「低線量放射線と健康影響」医療科学社発行、46〜47頁、106頁)

 以上のように、一般向けに発行されている書籍においても、この100ミリシーベルト以下の低線量放射線が、ガンのリスクを高めるのかどうかについては、さまざまの研究が掲載されている。
 このように個人的な研究や体験だけでなく、国際的な研究組織の結論があるにもかかわらず、低線量放射線を受けても安全であるという主張だけを放送するのは、どう見てもバランスを欠いていると言わざるを得ない。
 原発そのものが、東大の大学院教授といった肩書の人たちだけでなく、たくさんの専門家たちもみな、安全だと言い続けてきたが、現実はまったくそうでなかった。
専門家という人たちもいかに権力や金、または時代の風潮に流されていくかを露呈してきたのである。しかも、その専門という知識を用いて一般の大多数の人たちを欺いてきたのであった。
 そのことからして、特定のテレビ局の言う「専門家」が言うからといって全面的に信頼できないのは当然のことである。
 戦前にしても、政治や軍事、あるいは教育などさまざまの専門家がいたが、あの太平洋戦争を侵略戦争だ、確実に負けるなどと明言した人はきわめて少なかった。
大多数が、あの戦争を聖戦だとか、天皇を現人神であるとか信じこんでいたのである。
 NHKの番組では、原発爆発前の20倍〜30倍の内部被曝を受けているが、安全だ、と検査をした専門家が言ったということも放映されていた。
しかし、そもそも放射線の影響は、莫大な数の体内分子に放射線が衝突し、原子をとりまく電子をはねとばし、そこから分子同士の結合を断ち切るというところにある。
遺伝情報を持っているDNAの鎖があちこちで切断されても、それがみんな元通りに修復されているとか、だれが断言できるだろうか。
個々の人に、どこのDNAのどの部分にいかなる破壊が起こったかなど、一人一人調べることなどできるはずもない。
二重のDNAのらせん状の鎖の二つのうちの一本だけが切断されても、もう一つの正常なDNAによって修復されるということがある。しかし、二本のDNAがともに損傷を受けると修復に間違いが生じやすくなり、変異の原因となる。
 このようなことは全く偶然的で、体内に放射性物質が入ったとき、そこから出る放射線によって、いかなる損傷を受けていかに修復されたか、それは決して正確にはわからない。
 例えば、原爆の直後に広島に入った人も全部が同じような症状となったのでない、その発症のときも数年後から50年後までにも広がっているし、その症状も千差万別である。放射線以外の物質の発ガンにおいても、例えばタバコを何十年とすっていても発ガンしない人もあれば、若くして肺ガンになる人もいる。人それぞれに修復能力が異なるということもある。
 生活環境や食生活などすべてがかかわってくる。
 こうしたことを考えると、一般的に、低線量だから安全だ、というようなことを断言できるはずがないのである。
 じっさい、宇宙から注がれる放射線(宇宙線)は微量であるが、それによっても突然変異が生じうるのは広く知られているところである。 
 原発がなくとも、宇宙線や体内に取り入れたカリウム40、大地や建物から放射される放射線を受けていることも最近ではかなり知られている。しかし、そうした放射線は、何十万年と生きてきた地上の生物はそれを乗り越えて増え広がるだけのDNAの修復能力が与えられてきたと考えられる。だからこそそうした放射線を受けても痛くも、熱くも何も感じないようになっている。防護する必要がなかったからだと言えよう。
 しかし、そのような過去何十万年という長期の間、地上の生活にはかつて存在しなかった放射線を、従来のものに加えて今後の長期間浴びるようになったのが、現在の日本の状況である。
 人間を含め、動物は、火のような熱、寒さ、とげなどによる痛み、有毒ガス、渇き、空腹など、生命の危険につながるようなことに対しては、手を引っ込める、体を身震いさせて発熱させる、痛みから逃れる、息がつまりそうになる、空腹感やのどの渇きがひどくなり、必死で水を求め、食べられるものを口にする…といった防御策を本能的にとるように作られている。
 しかし、放射線については、致死量のような強い放射線を浴びても、そのときには何ら痛みも熱い感覚もない。
それは人間や動物が創造されたとき、原発事故や、原爆のような大量の放射線を浴びるような状況を想定されていなかったということになる。
 それほど、放射線は反生命的だと言えよう。
 日本において、すでに膨大な放射性廃棄物を造り出してしまったゆえに、このようなものを出さないようにすることはもはやできなくなっているが、今からでもそのような子孫末代まで害悪を及ぼす原発、核兵器というものをなくするというのが、あらゆる経済や政治的な思惑をはるかに超えてなすべきことなのである。


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