最近の傾向の意味するもの 1999年8月
日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連法が国会で成立したのが、五月二四日。それからわずか数カ月で、日の丸・君が代の法制化、通信傍受法案、住民基本台帳法改正など、やつぎばやに重要法案が決められていった。
これらは国民の福祉や自由を尊重するという方向でなく、国家権力で国民を規制し、自由を束縛する方向を持っている。
こうした方向がどこまでも押し進められていったのが、戦前であった。そしてその方向の結果、日本は中国に戦争をしかけて、以後十五年ちかくにわたる長期の戦争(日中戦争)になっていった。
そして、その終局として、太平洋戦争が行われた。そしてこの方向がどんなに重大な結果をもたらしたかはそこで失われた人命がおびただしい数にのぼっていることでよくわかる。
一九三一年の満州事変によって日中戦争が開始され、一九四五年の太平洋戦争の敗戦までの十四年間にどれほどの人命が失われたかを私たちはいつも念頭においておかねばならないだろう。戦争がいかに不条理であり、最大の悪事であるかはそれによって失われる人命が、ほかの出来事とはおよそ比べものにならないほど莫大な数に上ることでわかる。
十五年戦争から太平洋戦争の終わりまでの十四年間で、日本人はどれほどの命が失われただろうか。
陸海軍人と一般人の死を合計すれば、およそ三三〇万人にも達するという。(「日本の歴史」・第三十一巻 小学館発行による)これらの死者は十四年ほどの間の数であるから、それは、毎月二万人ほどが十四年間にわたって死に続けて、このような数になる。
さらに日本が攻撃し、占領、支配した東アジアの国々で失われた人命は、中国だけでも二千万人とも言われ、ベトナム、インドネシアでそれぞれ二百万人ずつ、フィリピンでは一〇〇万人が死んだとされており、合計では二五〇〇万人にも達するのである。
これは、毎月平均して十五万人もの人々が十四年間にわたって殺されていったという計算になる。
このようなおびただしい人命が失われていく戦争というのはまさしく悪魔のわざとしかいいようがない。
このような戦争の被害に比べれば、歴史上最大級の台風でも五千人の死者、また今回のトルコ大地震の被害も数万人と言われているから、戦争がいかに想像を絶する数であるかがわかる。
このようなおそるべき戦争を続けていくためには、戦争を批判する言論を封じ込めて、政府の言うとおりに従わせる必要があった。もともと戦争は大量殺人であり、そのような最大の犯罪行為を始めようというのであるから、それを実行するには、べつの重大な悪を使う必要がどうしても生じる。それが国民一人一人の自由を奪い、国家の権力のままに支配するということであり、それに批判的な者を捕らえ、厳しく罰していくことであった。
戦前には、国歌や国旗への尊重、愛国心の育成などは教育上においても最大限になされた。しかし、その結果は何があったのか。それは自分の国である日本人の三百万人以上も殺すことになり、アジアの人々を数千万人もの命を奪うことになったのである。
このような教育がどうして愛国心を育てるなどといえようか。これは、いかなる意味においても、国を滅ぼし、外国にも計り知れない害悪を加えることでしかなかったのである。
こうした戦前の事実をみれば、多数の批判意見をまったく無視して法制化を強行していったことや、どんな疑いで電話などが盗聴されているかからない通信傍受法その他の法律の制定や改正は、その方向が何か正しくないことへと向かっていると感じずにはいられない。